をみなへし
のべのふるさと
思ひ出でゝ宿りし
虫の声やこひしき
題しらず 藤原元真女郎花野辺のふるさとおもひ出でて宿りし虫の声や恋しき
よみ:おみなえしのべのふるさとおもいいでてやりしむしのこえやこいしき 隠削
意味:庭に移し植えられた女郎花よ。昔生えていた故郷の野辺で葉に宿っていた秋の虫が声が恋しいだろう。
備考:天徳三年九月中宮庚申歌合
あきのよは やどかる月も
露ながら そでに
ふきこす
をぎのうは風
題しらず 右衛門督通具秋の夜はやどかる月も露ながら袖に吹きこす荻のうはかぜ
よみ:あきのよはやどかるつきもつゆながらそでにふきこすおぎのうわかぜ 隠
意味:秋の夜は、露に写って宿っている月も、袖に吹き抜けて行く秋を知らせる荻の上風で、露と共に月光も散って行くよ
備考:通具俊成卿女歌合。参考 須磨の海士の袖に吹きこす潮風のなるとはすれど手にもたまらず(新古今和歌集巻第十二 恋歌二 藤原定家)
わがやどに
まきしなでしこ
いつしかも花に
さきなむ
比へつゝ
見む
万葉集巻第八 大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首
吾屋外尓 蒔之瞿麥 何時毛 花尓咲奈武 名蘇經乍見武
我がやどに 蒔きしなでしこ いつしかも 花に咲きなむ なそへつつ見む
こまとめて なほ
水かはむ やまぶきの
花の露そふ
いでの玉川
新古今和歌集巻第二 春歌下 百首歌たてまつりし時 皇太后宮大夫俊成駒とめてなほ水かはむ山吹のはなの露そふ井出の玉川
よみ:こまとめてなほみずかわむやまぶきのはなのつゆそういでのたまがわ 隆 隠
意味:ここで馬を止めて、なお馬にも水を飲ませてゆっくりしよう。満開の山吹の花の露も落ちて流れている井出の玉川の水なのだから。その間に私は山吹の花を鑑賞しよう。
備考:備考:文治六年三月五社百首で春日社奉納山吹。本歌:ささのくま檜隅川に駒止めてしばし水かへ影をだに見む(古今集巻第二十 神遊びの歌)。詠歌一体で花の露そふは、制詞とされる。露と玉は縁語。井手の玉川は山城の歌枕で、山吹、蛙の名所。
祇園萩月 花よせ