こうだいじ髙䑓寺
鷲峰山髙䑓寺は慶長年中に太閤秀吉公北の政所御建立の 菩提所也。古は雲居寺にして自然居士住給ひける。宗旨は禅(済家)。 中興開基は三江和尚なり。 佛殿の本尊は釋迦佛迦葉阿難を安置す。達磨大師の御厨 子は政所公の御車を用ひらる。方丈の唐門は秀吉公の船楼を もつて営しといふ。客殿南向にして襖の画は土佐光信狩野永 徳弘意了渓等なり。彫物彩色美麗を尽せり。本尊は千手観音 を安置す。小方丈には秀吉公の詠給ひし和哥十首を額にかくる。 聖護院道澄法親王の御筆なり。開山堂の額は東関と書して 雪月堂の筆。天井には政所公御車の上屋を用ひらる。三江和尚 常光院殿の像を安置す。祖堂よりの廊下を臥竜といふ。雪 月堂の額あり。これに登れば秀吉公北の政所の御魄舎あり。 長押に三十六歌仙をかくる。画は土佐光信和哥は八條智仁親王
の筆なり。其外内張の画は狩野古右京の筆多し。山上の傘 亭は千利休が好む所なり。岩栖洞は艮の山腹にあり。古の岩栖院 の旧跡なり。 當寺は大木の桜数珠ありて妖艶たる花の盛は園中に遊宴 を催し春を惜むのともがら多し。又秋の頃も萩の花いみ じうみやびやかにいろへて衆人のこゝろを動す。是當境の佳観 なり。(姥桜は山下の坊中にあり。 天満宮は其南に隣る)