あか/\と
日は難面も
秋の風
しほらしき
名や小松吹
萩薄
卯の花山くりからが谷をこえて、金沢は七月中の五日なり。ここに大坂よりかよふ商人何処といふ者あり。それが旅宿をともにす。一笑といふものは、この道にすける名のほのぼの聞えて、世に知人もはべりしに、去年の冬早世したりとて、その兄追善をもよおすに、
塚も動け我泣声秋の風
ある草庵にいざなはれて
秋涼し手ごとにむけや瓜茄子
途中吟
あかあかと日はつれなくも秋の風
小松といふ所にて
しほらしき名や小松ふく萩すすき
石山の
石より白し
秋の風
山中の温泉に行くほど、白根が嶽跡にみなしてあゆむ。左の山際に観音堂あり。花山の法皇三十三所の順礼とげさせたまひて後、大慈大悲の像を安置したまひて、那谷と名付たまふとなり。那智谷組の二字をわかちはべりしとぞ。奇石さまざまに、古松植ならべて、萱ぶきの小堂岩の上に造りかけて、殊勝の土地なり。
石山の石より白し秋の風
温泉に浴す。
その功有明につぐといふ。
山中や菊はたおらぬ湯の匂
あるじとするものは久米之助とていまだ小童(しょうどう)なり。かれが父誹諧を好み、洛の貞室若輩のむかしここに来たりしころ、風雅に辱しめられて、洛に帰て貞徳の門人となつて世にしらる。功名の後、この一村判詞の料を請ずといふ。今更むかし語とはなりぬ