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絵入源氏物語 葵 左大臣邸退出 蔵書

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源氏五十四帖 歌川国政画 賢木

 


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人々゛もいとかなし。大将の君は世をおぼしつゞくる

こといとさま/\にて、なき給さま、あはれに心ふかき

物から、いとさまよくなまめき給へり。おとゞひさし
          左大臣詞
うためらひ給てよはひのつもりにはさしもある

まじきことにつけてだになみだもろなるわざ

に侍るを、ましてひるよなう思ひ給へまとはれ侍

心をえのどめ侍らねば、ひとめもいとみだりがはし

く、心よはきさまに侍べければ、院などにもえまい

り侍らぬなり。ことのつゐでにはさやうにおもむけ

そうせさせ給へ。いくばくも侍るまじきおいのす

ゑに、うちすてられたるがつらくも侍かなと、せめて

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思ひしづめての給けしきいとわりなし。君もたび/\

はな打かみて、をくれさきだつほどのさだめなさは、

世のさがとみ給へしりながら、さしあたりておぼえ侍

心まどひはたぐひあるまじきわざになん。ゐんにも

ありさまそうし侍らんに、をしはからせ給てんとき
     左大臣詞
こえ給。さらばしぐれもひまなく侍めるを、くれぬほど
                源
にとそゞのかしきこえ給。うちみまはし給に、みきちや

うのうしろ、さうじのあなたなどのあきとをりたるな

どに、女房卅人ばかりをしこりて、こきうすきにひいろ

どもをきつゝ、みないみじう心ぼそげにて、うちしほたれ
                           左大臣ノ詞たしかノ
つゝゐあつまりたるを、いとあはれとみ給。おぼしす

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つまじき人もとまり給へれば、さりともものゝつゐでに

は立よらせ給はじやなどなぐさめ侍るを、ひとへに思ひ

やりなき女ばうなどは、けふをかぎりにおぼしすてつ

るふるさとと思ひくむじて、ながくわかれぬるかなしひ

よりも、たゞ時々゛なれつかうまつる年月のなごりなか

るべきを、なげき侍りめるなんことはりなる。うちと

けおはしますことは侍らさりつれど、さりともつゐに

はとあいなだのみし侍りつるを、げにこそ心ぼそき
                      源詞
ゆうべに侍れとても、又なき給ぬ。いとあさはかなる

人々のなげきにも侍なるかな。まことにいかなりとも

と、のどかに思ひ給へつるほどは、おのづから御めがるゝおり

人々もいとかなし。

大将の君は、世をおぼし続くる事いと樣々にて、泣き給ふ樣、哀れに心深き物

から、いと樣良くなまめき給へり。大臣、久しう躊躇ひ給ひて、「齢の積もりに

は、さしもあるまじき事につけてだに、涙もろなる業に侍るを、まして、干る

世なう思ひ給へまとはれ侍る心を、えのどめ侍らねば、人目もいと乱りがはし

く、心弱き樣に侍るべければ、院などにもえ参り侍らぬなり。事の序でには、

さやうにおもむけ奏せさせ給へ。幾ばくも侍るまじき老いの末に、打ち捨てら

れたるが、辛くも侍るかな」と、せめて思ひ静めて宣ふ気色、いとわりなし。

君も、度々鼻打かみて、「遅れ先立つ程の定め無さは、世のさがと見給へ知り

ながら、さし辺りて覚え侍る心惑ひは、類ひあるまじき業になん。院にも有樣

奏し侍らんに、推し計らせ給ひてん」と聞こえ給ふ。「さらば時雨も暇無く侍

るめるを、暮れぬ程に」と、そぞのかし聞こえ給ふ。

打ち見まはし給ふに、御几帳の後、障子のあなたなどの開き通りたるなどに、

女房三十人ばかりをしこりて、濃き薄き鈍色共を着つつ、皆いみじう心細げに

て、打ち塩垂れつつ居集まりたるを、いと哀れと見給ふ。「おぼし捨つまじき

人もとまり給へれば、さりとも、物の序でには、立ち寄らせ給はじや」など慰

め侍るを、ひとへに思ひやり無き女房などは、今日を限りにおぼし捨てつる故

里と思ひ屈むじて、長く別れぬる悲しびよりも、ただ時々馴れつかうまつる年

月の名残りなかるべきを、嘆き侍るめるなん、理りなる。打ち解けおはします

事は侍らさりつれど、さりとも遂にはと、あいな頼みし侍りつるを、げにこそ

心細き夕べに侍れ」とても、又泣き給ぬ。「いと浅はかなる人々の嘆きにも侍

るなるかな。真に、いかなりともと、長閑に思ひ給へつる程は、自づから御目

離るる折り

引歌
遅れ先立つ程の

新古今和歌集巻第八 哀傷歌
 題知らず     僧正遍照
末の露もとの滴や世の中のおくれさきだつためしなるらむ

よみ:すえのつゆもとのしずくやよのなかのおくれさきだつためしなるらむ 隠 有定隆雅

意味:草の葉の末に付いている露も、葉の元に溜まっている、雫も何れ消えて無くなってしまのは、長生きする人も若死する人も、結局は遅い早いと言うだけで、皆死んでしまうと言うの世の中の理の例を示しているんだなあ。

備考:公任三十六人撰、俊成三十六人歌合、和漢朗詠集。哀傷巻頭歌。


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