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美濃の家づと 四の巻 恋歌一1

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新古今集美濃の家づと四の巻

 恋歌一

和歌所歌合に久忍恋      摂政

いそのかみふるの神杉ふりぬれど色にはいでず露も時雨も

結句は、露にもしぐれにもと意なり。されば三の句は、年をへて

うるくなりたる意にて、露時雨のかたは、詞の縁のみなり。

露もしぐれも降ぬれどゝつゞく意にはあらず。さては詞

とゝのはず。

北野宮歌合に忍恋        太上天皇御製

我恋は真木の下葉にもる時雨ぬるとも袖の色にいでめや

時雨の下へ、如くといふ詞をそへて心得べし。

百首哥奉りし時         慈圓大僧正

わが恋は松をしぐれの染めかねて真葛が原に風さわぐなり

めでたし。 二三の句は、人のつれなき意。下句は、うら

むる意なるべし。

家の哥合に夏恋         摂政

空蝉の鳴音やよそにもりの露ほしあへぬ袖を人のとふまで

めでたし。詞いとめでたし。 空蝉はなくねといひ、

森といはむ料なり。 一首の意、袖をほしあへず、人のあ

やしみとふ迄に、なきぬらしたれば、さだめて此なくねも、

よそにもりやすらんとなり。結句、人のとふ意なりぬれば

と詞をそへて心得べし。 たゞに上へかへりて、人のとふ

まで鳴音やもりぬらむとと、つゞけて見ては聞えず。さては

詞もとゝのはざるなり。 空蝉巻に、√うつせみの羽にお

く露のこがれて忍び/\にぬるゝ袖かな。

                    寂蓮

思ひあれば袖にほたるをつゝみてもいはゞや物をとふ人はなし

本歌√夕されば蛍よりけにもゆれども光見ねばや人のつ

れなさ。√つゝめどもかくれぬものは云々 下句は、下上にうち

かへして、物をとふ人はなし。いはゞやといふ意也。されどつゝ

みていはゞやとつゞくやうに聞えて、まぎらはしきいひざま也。

 一首の意は、我は蛍のもゆるが如くなる思ひあれば、人の

見てとひもやすると、蛍を袖につゝみてあれども、本哥の

ごとく、光見ねばや、とふ人はなく、そのかひもなければ、今は

たゞにかくと、云に出ていはゞやとなり。

水無瀬にてをのこども久恋といふことをよみ侍りし

を                      太上天皇御製

思ひつゝへにける年のかひやなきたゞあらましのゆふぐれの空

本歌後撰に、√おもひつゝ經にける年をしるべにてなれぬる

物はこゝろなりけり。 上二句に此本哥のすべての意を

こめてよませ給へるなるべし。さればたゞあらましとは、本

哥のなれぬるものは心なりといへるによれり。すべてあらま

しとは、ゆくさきのことを、とせむかくせんと、かねて心に思ひ

まふくるをいへり。 上句の意は、あはむ/\と、年をへて心

におもひなれぬるかひやなきなり。 三の句、かひもなく

又はかひぞなき、などあらで、や°とあるは、末つひにかひ

なくてやゝみなむの意なり。



※空蝉巻に、√うつせみの羽に~
源氏物語 空蝉帖
西の君も、もの恥づかしき心地して わたりたまひにけり。 また知る人もなきことなれば、人知れずうちながめてゐたり。小君の渡り歩くにつけても、胸のみ塞がれど、御消息もなし。あさましと思ひ得る方もなくて、されたる心に、ものあはれなるべし。
つれなき人も、 さこそしづむれ、いとあさはかにもあらぬ御気色を、 ありしながらのわが身ならばと、 取り返すものならねど、忍びがたければ、この御畳紙の片つ方に、
空蝉の羽に置く露の木隠れて忍び忍びに濡るる袖かな

伊勢集
空蝉のはにおく露のこがくれて忍び忍びにぬるる袖かな


※√夕されば蛍よりけに~
寛平御時后宮歌合       よみ人知らず
夕されば蛍よりけにもゆるとも光みえねば人ぞつれなき


※√つゝめどもかくれぬものは
後撰集 夏歌
 桂のみこのほたるをとらへてとい
 ひ侍りけれは、童のかさみの袖に
 つつみて
               よみ人知らず
つつめども隠れぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
 和漢朗詠集、十訓抄

石上神社神杉


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