頭注
らにの花 細らんしらに諸本異あり。拾遺愚草ノ物名はんひとはじめはよめるを
はにひと後にあらためたる也。假名のならひはぬる字をばに文字にてをくる也。
しをんしをにの類也。師物の名の時はらにとよめどもつねにはらむと云べき歟。
但書本によるべき歟。
面白きをも給へりけるをみすのつまより
さし入て、是も御らんずべきゆへは有けり
とて、とみにもゆるさでもたまへれば、うつ
孟玉の袖を夕の引うご
たへに思ひもよらでとり給、御袖をひき
かし給ふ也
うごかしたり。
夕霧
おなじ野の露にやつるゝふじばかまあ
はれはかけよかごとばかりも。√みちのはて
玉かづらの心也
なるとかや。いと心づきなくうたて成ぬ
れど、みしらぬさまに、やをらひきいりて、
玉かづらの返哥
たづぬるにはるけきのべの露ならばう
頭注
是も御覧ずべき
細蘭はたぐひあまたあり。
蘭兄蕙弟と云事あ
り。兄弟の事にとる歟。紫
のゆかりをいへる歟。抄蘭
はふぢばかまと訓ずれば
服衣の藤衣のかたにとり
なせる歟。うたの心はさ見
えたり。
うつたへに 細総じてはひた
すらになど云心也。一向
にの心也。磯邊の波のう
つたへにの心はうつたびに
と云義あり。如何。爰の
心は一向に思ひもかけず
してとり給へる也。河
説如何。孟√春雨はふり
そめししかどうつたへに山を
みどりになさんとや見し
頭注
こゝにては一向と云ふ心也。
おなじ野の 細上句三条宮の御服を同じやうに着給へるを云也。藤ばかまは藤
衣の縁あり。かごととは誓言也。爰の心はたゞ少ばかりと云心也。孟蘭をこゝにてとは藤
衣の心ばかりと見ゆ。おなじのゝ露にやつるゝとは玉と夕と共に祖母の服にやつれたる
心也。よそに思ひなし給はで御詞をもかけて給へよと也。
みちのはてなる 河√あづまぢの道のはてなるひたち帯のかごと斗もあはんとぞ思ふ花か
ごとばかりもといへるうたの末の詞にかけていへる也。抄同
尋ぬるに 細此哥花鳥の義も面白歟。玉鬘夕霧は此程迄は兄弟也。されば同袖と云
べき程もなきと也。はるけき中にもなき程にかこつべきよしなしといひのがれたると也。
又の義は玉かづらと夕霧との中を能尋ぬれば兄弟にはあらずはるけき野べ也。され
ど又はるかによそ人と云べきには非ず。うす紫程のゆかりは有べしと也。実はいとこ
なる故也。愚案細此両説はじめは花鳥のちの説も哢花の義也。孟入道右府の覚悟も花鳥
の説に付侍る也云々。花玉の夕と連枝のゆかりならではるけきのべならば紫のうすきゆ
かりをかこち侍るべきに、はるけき中にてもなきほどに、かこつべき事はよも侍らじと
玉のいひのがれたる哥の心ばせ也。おもての事を隠してうらをいへる哥也。下の詞にかやうに
て聞ゆるよりふるき故はいかゞといへるにて哥の心はきこえ侍る也。
玉かづらの詞也。かごと
すむらさきやかごとならましかやうにきこ
ばかりもあはんとの心をのがれんため也。抄義 夕霧の也
ゆるより、ふかきゆへはいかゞとの給へば、すこし
うちわらひて、あさきもふかきもおぼしわく
かたは侍なんとおもふ給ふる。まめやかにはいと
面白きをも給へりけるを御簾の端(つま)より差し入れて、
「これも御覧ずべき故は有けり」とて、とみにも許さで給へれば、
うつたへに思ひも寄らで取り給ふ、御袖を引き動かしたり。
同じ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも √道の果てなるとかや。いと心づきなくうたて成りぬれど、見知らぬ 樣に、やをら引き入りて、
尋ぬるに遙けき野辺の露ならば薄紫やかごとならまし 「かやうに聞こゆるより、深きゆへは如何」と宣へば、少し打笑ひて、 「浅きも深きもおぼし分く方は侍りなんと思ふ給ふる。まめやかには いと ※拾遺愚草の物名→不明 ただし拾遺集物名に らに よみ人しらず 秋ののに花てふ花を折りつれはわひしらにこそ虫もなきけれ ※拾遺愚草 磯邊の波のうつたへに 拾遺愚草(定家歌集) 新勅撰集 恋歌一 定家 松が根を磯邊の波のうつたへにあらはれぬべき袖の上かな ※春雨はふりそめししかどうつたへに~ 忠美集 春雨は降りそめにしかうつたへに山を緑になさむとや見し 和歌 薫 同じ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも よみ:おなじのののにやつるるふじばかまあわれはかけよかごとばかりも 意味:いとことして同じ大宮の薨去に悲しんで露にやつれている藤袴です。少しは優しい言葉をかけてください。 備考:藤袴に喪服の藤衣を響かせる。 玉鬘 尋ぬるに遙けき野辺の露ならば薄紫やかごとならまし よみ:たずぬるにはるけきのべのつゆならばうすむらさきやかごとならまし 意味:尋ねてみると遥かに離れた野辺の露ならば、薄紫の御縁と言っても、無縁と同じでしょう。 備考:薫の歌の野、露と藤袴の薄紫色を用いて、無関係と返す。本歌 武蔵野は袖ひつばかりわけしかど若紫は尋ねわびにき(後撰集 雑歌二 読人しらず) 引歌 あづまぢの道のはてなる~ 新古今和歌集巻第十一 戀歌一 題しらず よみ人知らず 東路の道のはてなる常陸帶のかごとばかりも逢はむとぞ思ふ
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄 九条禅閣植通
※河 河海抄 四辻左大臣善成
※細 細流抄 西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄 牡丹花肖柏
※和 和秘抄 一条禅閣兼良
※明 明星抄 西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
同じ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも √道の果てなるとかや。いと心づきなくうたて成りぬれど、見知らぬ 樣に、やをら引き入りて、
尋ぬるに遙けき野辺の露ならば薄紫やかごとならまし 「かやうに聞こゆるより、深きゆへは如何」と宣へば、少し打笑ひて、 「浅きも深きもおぼし分く方は侍りなんと思ふ給ふる。まめやかには いと ※拾遺愚草の物名→不明 ただし拾遺集物名に らに よみ人しらず 秋ののに花てふ花を折りつれはわひしらにこそ虫もなきけれ ※拾遺愚草 磯邊の波のうつたへに 拾遺愚草(定家歌集) 新勅撰集 恋歌一 定家 松が根を磯邊の波のうつたへにあらはれぬべき袖の上かな ※春雨はふりそめししかどうつたへに~ 忠美集 春雨は降りそめにしかうつたへに山を緑になさむとや見し 和歌 薫 同じ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも よみ:おなじのののにやつるるふじばかまあわれはかけよかごとばかりも 意味:いとことして同じ大宮の薨去に悲しんで露にやつれている藤袴です。少しは優しい言葉をかけてください。 備考:藤袴に喪服の藤衣を響かせる。 玉鬘 尋ぬるに遙けき野辺の露ならば薄紫やかごとならまし よみ:たずぬるにはるけきのべのつゆならばうすむらさきやかごとならまし 意味:尋ねてみると遥かに離れた野辺の露ならば、薄紫の御縁と言っても、無縁と同じでしょう。 備考:薫の歌の野、露と藤袴の薄紫色を用いて、無関係と返す。本歌 武蔵野は袖ひつばかりわけしかど若紫は尋ねわびにき(後撰集 雑歌二 読人しらず) 引歌 あづまぢの道のはてなる~ 新古今和歌集巻第十一 戀歌一 題しらず よみ人知らず 東路の道のはてなる常陸帶のかごとばかりも逢はむとぞ思ふ
読み:あずまじのみちのはてなるひたちおびのかごとばかりもあはむとぞおもう 隠
意訳:東路の道の果てにある鹿島神宮の縁結び占いの常陸帯の締め金ではないが、ほんの少しでも神様のご縁があるなら逢いたいものです。
備考:「かご(締め金)」と「かごと(少し)」の掛詞 古今和歌六帖、八代集抄、古今和歌集注、詞字注、新古今集抄聞書
略語※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄 九条禅閣植通
※河 河海抄 四辻左大臣善成
※細 細流抄 西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄 牡丹花肖柏
※和 和秘抄 一条禅閣兼良
※明 明星抄 西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺