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Channel: 新古今和歌集の部屋
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源氏物語和歌 紅葉賀、花宴、葵

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紅葉賀
84 源氏 物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや
ものおもふにたちまふへくもあらぬみのそてうちふりしこころしりきや
85 藤壺宮 唐人の袖振る事は遠けれど立ち居に付けて哀れとは見き
からひとのそてふることはとほけれとたちゐにつけてあはれとはみき
86 源氏 いかさまに昔結べる契りにてこの世に掛かる中の隔てぞ
いかさまにむかしむすへるちきりにてこのよにかかるなかのへたてそ
87 藤壺宮命婦 見ても思ふ見ぬはたいかに歎くらむこや世の人の纏ふてふ闇
みてもおもふみぬはたいかになけくらむこやよのひとのまとふてふやみ
88 源氏 よそへつつ見るには心慰まで露けさ勝る撫子の花
よそへつつみるにはこころなくさまてつゆけさまさるなてしこのはな
89 藤壺宮 袖濡るる露の所縁と思ふにもなほ疎まれぬ大和撫子
そてぬるるつゆのゆかりとおもふにもなほうとまれぬやまとなてしこ
90 源典侍 君し来は手馴れの駒に刈り飼はむ盛り過ぎたる下葉なりとも
きみしこはてなれのこまにかりかはむさかりすきたるしたはなりとも
91 源氏 笹分けは人や咎めむ何時となく駒なつめくる森の木隠れ
ささわけはひとやとかめむいつとなくこまなつくめるもりのこかくれ
92 源典侍 立ち濡るる人しもあらじ東屋にうたても掛かる雨注ぎかな
たちぬるるひとしもあらしあつまやにうたてもかかるあまそそきかな
93 源氏 人妻はあな煩はし東屋の真屋の余りも慣れじとぞ思ふ
ひとつまはあなわつらはしあつまやのまやのあまりもなれしとそおもふ
94 頭中将 包むめる名や漏り出でむ引き交はしかく綻ぶる中の衣に
つつむめるなやもりいてむひきかはしかくほころふるなかのころもに
95 源氏 隠れ無きものと知る知る夏衣着たるを薄き心とぞ見る
かくれなきものとしるしるなつころもきたるをうすきこころとそみる
96 源典侍 恨みても言ふ甲斐ぞ無き立ち重ね引きて返りし波の名残に
うらみてもいふかひそなきたちかさねひきてかへりしなみのなこりに
97 源氏 荒立ちし波に心は騒がねど寄せけむ磯を如何恨みぬ
あらたちしなみにこころはさわかねとよせけむいそをいかかうらみぬ
98 源氏 中絶えばかごとや負ふと危ふさに縹の帯を取りてだに見ず
なかたえはかことやおふとあやふさにはなたのおひをとりてたにみす
99 頭中将 君にかく引き取られぬる帯なればかくて耐えぬる中とかこたむ
きみにかくひきとられぬるおひなれはかくてたえぬるなかとかこたむ
100 源氏 尽きもせぬ心の闇に暮るるかな雲居に人を見るにつけても
つきもせぬこころのやみにくるるかなくもゐにひとをみるにつけても

花宴
101 藤壺宮 大方に花の姿を見ましかば露も心の置かれましやは
おほかたにはなのすかたをみましかはつゆもこころのおかれましやは
102 源氏 深き夜の哀れを知るも入る月の朧げならぬ契りとぞ思ふ
ふかきよのあはれをしるもいるつきのおほろけならぬちきりとそおもふ
103 朧月夜 憂き身世にやがて消えなば訪ねても草の原をば問はじとや思ふ
うきみよにやかてきえなはたつねてもくさのはらをはとはしとやおもふ
104 源氏 何れぞと露の宿を分かむ間に小笹が原に風もこそ吹け
いつれそとつゆのやとりをわかむまにをささかはらにかせもこそふけ
105 源氏 世に知らぬ心地こそすれ有明の月の行くへを空に紛へて
よにしらぬここちこそすれありあけのつきのゆくへをそらにまかへて
106 右大臣 我が宿の花しなべての色ならば何かは更に君を待たまし
わかやとのはなしなへてのいろならはなにかはさらにきみをまたまし
107 源氏 梓弓いるさの山に惑ふかなほの見し月の影や見ゆると
あつさゆみいるさのやまにまとふかなほのみしつきのかけやみゆると
108 朧月夜 心いる方ならませば弓張の月なき空に迷はましやは
こころいるかたならませはゆみはりのつきなきそらにまよはましやは


109 六条御息所 影をのみ御手洗川のつれなきに身の憂きほどぞいとど知らるる
かけをのみみたらしかはのつれなきにみのうきほとそいととしらるる
110 源氏 量りなき千尋の底の海松房の生ひ行く末は我のみぞ見む
はかりなきちひろのそこのみるふさのおひゆくすゑはわれのみそみむ
111 紫上 千尋ともいかでか知らむ定め無く満ち干る潮ののどけからぬに
ちひろともいかてかしらむさためなくみちひるしほののとけからぬに
112 源典侍 儚しや人の簪せる葵故神の験の今日を待ちける
はかなしやひとのかさせるあふひゆゑかみのしるしのけふをまちける
113 源氏 挿頭ける心ぞ徒に思ほゆる八十氏人になべて葵を
かさしけるこころそあたにおもほゆるやそうちひとになへてあふひを
114 源典侍 悔しくも挿頭しけるかな名のみして人頼めなる草葉ばかりを
くやしくもかさしけるかななのみしてひとたのめなるくさははかりを
115 六条御息所 袖濡るる恋路とかつは知りながら下り立つ田子の自らぞ憂き
そてぬるるこひちとかつはしりなからおりたつたこのみつからそうき
116 源氏 浅みにや人は下り立つ我が方は身もそぼつまで深き恋路を
あさみにやひとはおりたつわかかたはみもそほつまてふかきこひちを
117 生霊 嘆き詫び空に乱るる我が玉を結び留めよ下がいの褄
なけきわひそらにみたるるわかたまをむすひととめよしたかひのつま
118 源氏 上りぬる煙はそれと分かねどもなべて雲居のあはれなるかな
のほりぬるけふりはそれとわかねともなへてくもゐのあはれなるかな
119 源氏 限りあれば薄墨衣浅けれど涙ぞ袖をふちとなしける
かきりあれはうすすみころもあさけれとなみたそそてをふちとなしける
120 六条御息所 人の世を哀れと聞くも露けきに送るる袖を思ひこそやれ
ひとのよをあはれときくもつゆけきにおくるるそてをおもひこそやれ
121 源氏 留まる身も消えしも同じ露の世に心置くらむ程ぞ儚き
とまるみもきえしもおなしつゆのよにこころおくらむほとそはかなき
122 頭中将 雨となり時雨る空に浮雲を何れの方と分きて眺めむ
あめとなりしくるるそらのうきくもをいつれのかたとわきてなかめむ
123 源氏 見し人の雨となりにし雲居さへいとど時雨にかき暗らす頃
みしひとのあめとなりにしくもゐさへいととしくれにかきくらすころ
124 源氏 草枯れの真垣に残る撫子を別れし秋の形見とぞ見る
くさかれのまかきにのこるなてしこをわかれしあきのかたみとそみる
125 大宮 今も見てなかなか袖を朽たすかな垣ほ荒れにし大和撫子
いまもみてなかなかそてをくたすかなかきほあれにしやまとなてしこ
126 源氏 分きてこの暮れこそ袖は露気けれ物思ふ秋は数多経ぬれど
わきてこのくれこそそてはつゆけけれものおもふあきはあまたへぬれと
127 朝顔斎院 秋霧に立ち後れぬと聞きしより時雨る空も如何とぞ思ふ
あききりにたちおくれぬとききしよりしくるるそらもいかかとそおもふ
128 源氏 亡き魂ぞいとど悲しき寝し床の憧れ難き心倣ひに
なきたまそいととかなしきねしとこのあくかれかたきこころならひに
129 源氏 君亡くて塵積もりぬる常夏の露打ち払ひ幾夜寝ぬらむ
きみなくてちりつもりぬるとこなつのつゆうちはらひいくよねぬらむ
130 源氏 文なくも隔てけるかな夜を重ね流石に慣れし夜の衣を
あやなくもへたてけるかなよをかさねさすかになれしよるのころもを
131 源氏 数多年今日改めし色衣着ては涙ぞ降る心地する
あまたとしけふあらためしいろころもきてはなみたそふるここちする
132 大宮 新しき年とも言はず降るものは古りぬる人の涙なりけり
あたらしきとしともいはすふるものはふりぬるひとのなみたなりけり

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