藤裏葉
宰相、盃をもちながら、けしきばかりはいしたてまつり給へるさま、いとよしあり。
幾かへり露けき春をすぐしきてはなのひもとくをりにあふらん
とうの中將にたまへば
たをやめの袖にまがへる藤の花みる人からや色もまさらむ
つぎ/\づんながるめど、ゑひのまぎれにはか/ヾしからで、これよりまさらず。七日の夕づく夜、かげほのからなるに、いけのかゞみのどかにすみわたれり。げに、まだほのかなる木ずゑどものさう/\しき比なるに、いたうけしきばみよこたはれる松のこだかきほどにあらぬに、かゝれる花のさま、よのつねならずおもしろし。
第十一 戀歌一
年を經ていひわたり侍りける女のさすがにけぢかくはあらざりけるに春の末つ方いひ遣はしける
大中臣能宣朝臣
幾かへり咲き散る花を眺めつつもの思ひ暮らす春に逢ふらむ