古今著聞集 巻第十一 畫圖第十六
後白河院の御時松殿基房年中行事繪に押紙の事
後白河院御時、年中行事を繪にかゝれて、御賞翫のあまり、松殿へ進ぜられたりけり。こまかに御覽じて、僻事ある所/"\に押紙をして、そのあやまりを御自筆にてしるしつけて返進せられたりけるを、法皇御覽じて、繪をかきなをさるべきに、勅定に、「これ程の人の自筆にて押紙したる。いかゞはなちすてゝ繪をなをす事あるべき。此事によりて、此繪すでに重寶となりたり。」とて、さながら蓮華王院の寶藏に籠られにけり。そのをし紙今にあり。いといみじき事なり。