伊勢物語繪詞
![]()
夜も
明けば
きつに
はめ
な
で
くだ
かけの
まだきになきて
せなをやりつる
くだかけ
むかし、男、陸奥の国にすずろにゆきいたりにけり。そこなる女、京の人はめづらかにやおぼえけむ、せちに思へる心なむありける。さてかの女、
なかなかに恋に死なずは桑子にぞなるべかりける玉の緒ばかり
歌さへぞひなびたりける。さすがにあはれとや思ひけむ、いきて寝にけり。夜ぶかくいでにければ、女、
夜も明けばきつにはめなでくだけかけのまだきに鳴きてせなをやりつる
といへるに、男、京へなむまかるとて、
栗原のあねはの松の人ならばみやこのつとにいざといはましを
といへりければ、よろこぼひて、思ひけらしとぞいひをりける。

夜も
明けば
きつに
はめ
な
で
くだ
かけの
まだきになきて
せなをやりつる
くだかけ
むかし、男、陸奥の国にすずろにゆきいたりにけり。そこなる女、京の人はめづらかにやおぼえけむ、せちに思へる心なむありける。さてかの女、
なかなかに恋に死なずは桑子にぞなるべかりける玉の緒ばかり
歌さへぞひなびたりける。さすがにあはれとや思ひけむ、いきて寝にけり。夜ぶかくいでにければ、女、
夜も明けばきつにはめなでくだけかけのまだきに鳴きてせなをやりつる
といへるに、男、京へなむまかるとて、
栗原のあねはの松の人ならばみやこのつとにいざといはましを
といへりければ、よろこぼひて、思ひけらしとぞいひをりける。
