太上天皇 37首
後鳥羽天皇ごとば1180~1239譲位後三代院政をしく。承久の変により隠岐に流される。多芸多才で、新古今和歌集の院宣を発し、撰者に撰ばせた後更に撰ぶ。
第一 春歌上
2 春のはじめの歌
ほのぼのと春こそ空に來にけらし天の香具山かすみたなびく
元久二年三月日吉社三十首
18 和歌所にて關路鶯ということを
鶯の鳴けどもいま
だ降る雪に杉の葉しろきあふさかの關
和歌所影供歌合
36 をのこども詩をつくりて歌に合せ侍りしに水郷春望といふことを
見わたせば山もとかすむ水無瀬川夕べは秋となにおもひけむ
隠 元久詩歌合 ★
第二 春歌下
99 釋阿和歌所にて九十の賀し侍りしをり屏風に山に櫻かきたるところを
さくら咲く遠山鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ色かな
隠 俊成九十賀
133 最勝四天王院の障子に吉野山かきたる所
みよし野の高嶺のさくら散りにけり嵐もしろき春のあけぼの
最勝四天王院
135 ひととせ忍びて大内の花見にまかりて侍りしに庭に散りて侍りし花を硯の蓋に入れて攝政のもとにつかわし侍りし
今日だにも庭を盛とうつる花消えずはありとも雪かとも見よ
第三 夏歌
194 題しらず
おのがつま戀ひつつ鳴くや五月やみ神なび山の山ほととぎす
隠 仮名序掲載歌 勅 ※よみ人知らず ★
236 太神宮に奉りし夏の歌の中に
郭公くもゐのよそに過ぎぬなり晴れぬおもひのさみだれの頃
内宮三十首
279 太神宮に奉りし夏の歌の中に
山里のみねのあまぐもとだえしてゆふべ涼しきまきのした露
外宮三十首
第四 秋歌上
433 秋の歌の中に
秋の露やたもとにいたく結ぶらむ長き夜飽かずやどる月かな 隠 不詳
第五 秋歌下
470 秋歌の中に
露は袖に物思ふ頃はさぞな置くかならず秋のならひならねど 不詳
471 秋歌の中に
野原より露のゆかりをたづね來てわが衣手に秋かぜぞ吹く
元久元年賀茂上社三十首
492 秋の歌とて
さびしさはみ山の秋の朝ぐもり霧にしをるるまきの下露
未詳
517 秋の歌とて
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりすやや影さむしよもぎふの月
隠 仙洞句題五十首
526 最勝四天王院の障子に鈴鹿川かきたる所
鈴鹿川ふかき木の葉に日かずへて山田の原の時雨をぞ聞く
勅 最勝四天王院 ★
第六 冬歌
581 冬の歌の中に
深綠あらそひかねていかならむ間なくしぐれのふるの神杉
隠 元久二年三月日吉社三十首
614 冬歌中に
冬の夜の長きを送る袖ぬれぬあかつきがたの四方のあらしに
元久二年三月日吉三十首
636 最勝四天王院の障子に宇治河かきたる所
橋姫のかたしき衣さむしろに待つ夜むなしき宇治のあけぼの
隠 勅 最勝四天王院 ★
683 百首歌中に
このごろは花も紅葉も枝になししばしな消えそ松のしら雪 正治二年後鳥羽院御百首
第八 哀傷歌
801 十月ばかり水無月に侍りしころ前大僧正慈圓のもとへぬれてしぐれのなど申し遣はして次の年の神無月に無常の歌あまたよみて遣はし侍りける中に 思ひ出づる折りたく柴の夕煙むせぶもうれし忘れがたみに 隠
803 雨中無常といふことを 亡き人のかたみの雲やしぐるらむゆふべの雨にいろはみえねど 隠 建永元年7月当座
第十 羇旅歌
989 熊野へまゐり侍りしに旅のこころを 見るままに山風あらくしぐるめり都もいまは夜寒なるらむ 隠
第十一 戀歌一
1029 北野宮歌合に忍戀のこころを わが戀はまきの下葉にもる時雨ぬるとも袖の色に出でめや 隠 北野宮歌合
1033 水無瀬にてをのこども久戀といふことをよみ侍りしに 思ひつつ經にける年のかひやなきただあらましの夕暮のそら 隠 水無瀬釣殿歌合
第十三 戀歌三
1197 戀の歌とて たのめずは人を待乳の山なりと寝なましものをいさよひの月 未詳
第十四 戀歌四
1271 百首歌中に 忘らるる身を知る袖のむら雨につれなく山の月は出でけり 仙洞影供歌合
1313 水無瀬の戀十五首の歌合に 里は荒れぬ尾上の宮のおのづから待ち來し宵も昔なりけり 隠 水無瀬恋十五首
1323 被忘戀のこころを 袖の露もあらぬ色にぞ消えかへる移ればかはる歎せしまに 隠 建永元年7月当座
第十七 雜歌中
1633 住吉歌合に山を 奧山のおどろが下も踏みわけて道ある世ぞと人に知らせむ 隠 日吉社歌合
第十八 雜歌下
1783a 太神宮歌合に おほぞらにちぎるおもひの年も經ぬ月日もうけよ行末の空 内宮三十首
第十九 神祇歌
1875 大神宮の歌の中に ながめばや神路の山に雲消えてゆふべの空を出でむ月かげ 内宮三十首
1876 大神宮の歌の中に 神風やとよみてぐらに靡くしでかけてあふぐといふも畏し 外宮三十首
1907 熊野へ參りて奉り侍りし 岩にむす苔ふみならすみ熊野の山のかひある行末もがな 隠 未詳
1908 新宮に詣づとて熊野川にて 熊野川くだす早瀬のみなれ棹さすが見なれぬ浪のかよひ路 未詳
1911 熊野の本宮やけて年の内に遷宮侍りしに參りて 契あればうれしきかかる折に逢ひぬ忘るるな神もゆく末の空 未詳
146d 大神宮に百首歌奉りし中に いかにせむ世にふるながめ柴の戸にうつろふ花の春の暮がた 建仁元年三月内宮百首
298d 大神宮に百首歌奉りし中に 朝露のをかのかや原山風ににみだれて物は秋ぞかなしき 外宮三十首