明月記 建永元年
六月
十九日。天晴る。未後に雷鳴。大雨、夕に止む。
院より召し有り(新古今の料と云々。清範奉る)。即ち、馳せ参ず。大府卿と召される云々。彼の人参ぜず。大雷電の後に清範出で来、新古今を下す。五巻、之れ有り。故殿の御押紙あるに依りて、此の事を見るべしといへり。披きて見る。賀の部、一品良子内親王家の歌合後宴の歌、土御門右大臣、不審(押紙)を貽す。尋ね沙汰すべしと。件の歌合、祐子内親王の家なり(是源卿の撰なり。時代、人名、論勿き者なり)。哀傷の部、二位かくれ侍りて、新少将がもとにつかはしける。知足院入道、前太政大臣、同人の撰。押すに二位荒涼なり。此の事暗くして知り難し。外記に問ふ。左右あるべきかの由を申す。恋の部、西行の歌、二首、一定、西行の歌かと云々。此の事不審あれば、正すべきかの由を申す。雑の部、伊勢大輔、正光中将の時の贈答。伊勢大輔、正光中将の時、如何。上東門院入内以後に参ずと云々。是、又源卿の撰。勅定に随ふべき由、之を申す。
夜に入りて退出す。又帰参し、名謁ありて又退下す。
西行二首
不明
賀歌
祐子内親王家にて桜を
土御門右大臣
君が代にあふべき春のおほければ散るとも桜あくまでぞみむ 通具 隠
哀傷歌
従一位源師子かくれ侍りて宇治より新少将
がもとにつかはしける
知足院入道前関白太政大臣
袖濡らす萩のうはばの露ばかり昔忘れぬ虫のねぞする 通(尊経) 隠
雑歌上
参議正光おぼろ月夜に忍びて人のもとにま
かれりけるを見あらはしてつかはしける
伊勢大輔
浮雲はたち隠せどもひまもりて空行く月の見えもするかな 通
六月
十九日。天晴る。未後に雷鳴。大雨、夕に止む。
院より召し有り(新古今の料と云々。清範奉る)。即ち、馳せ参ず。大府卿と召される云々。彼の人参ぜず。大雷電の後に清範出で来、新古今を下す。五巻、之れ有り。故殿の御押紙あるに依りて、此の事を見るべしといへり。披きて見る。賀の部、一品良子内親王家の歌合後宴の歌、土御門右大臣、不審(押紙)を貽す。尋ね沙汰すべしと。件の歌合、祐子内親王の家なり(是源卿の撰なり。時代、人名、論勿き者なり)。哀傷の部、二位かくれ侍りて、新少将がもとにつかはしける。知足院入道、前太政大臣、同人の撰。押すに二位荒涼なり。此の事暗くして知り難し。外記に問ふ。左右あるべきかの由を申す。恋の部、西行の歌、二首、一定、西行の歌かと云々。此の事不審あれば、正すべきかの由を申す。雑の部、伊勢大輔、正光中将の時の贈答。伊勢大輔、正光中将の時、如何。上東門院入内以後に参ずと云々。是、又源卿の撰。勅定に随ふべき由、之を申す。
夜に入りて退出す。又帰参し、名謁ありて又退下す。
西行二首
不明
賀歌
祐子内親王家にて桜を
土御門右大臣
君が代にあふべき春のおほければ散るとも桜あくまでぞみむ 通具 隠
哀傷歌
従一位源師子かくれ侍りて宇治より新少将
がもとにつかはしける
知足院入道前関白太政大臣
袖濡らす萩のうはばの露ばかり昔忘れぬ虫のねぞする 通(尊経) 隠
雑歌上
参議正光おぼろ月夜に忍びて人のもとにま
かれりけるを見あらはしてつかはしける
伊勢大輔
浮雲はたち隠せどもひまもりて空行く月の見えもするかな 通