伊勢物語初段に
在原業平朝臣
春日の里に知○
ありて狩に出ら
れける時其所に
いとうつくしき女の
兄弟にて住みけるを
みて心まどろになりて
着したる忍ぶずりの
かり衣を引ちぎりて
哥を書ておくりける
春日野のわかむら
さきのすりごろも
しのぶのみだれ
かぎりしられず
女古哥にてかへし
みちのくのしのぶ
もぢずりたれ
ゆへに
みだれそめにし
われなら
なくに
注
○は「よし」で漢字不明
※
新古今和歌集巻第十一 恋歌一
在原業平朝臣
春日野の若紫のすりごろもしのぶのみだれかぎり知られず
伊勢物語廿三段に
業平朝臣河内
の國にいくさきを
もうけて夜毎に
かよひけれども
此女うらむるけしきも
なくて出しやりければ
男こと心ありてけるにや
あらんと思ひうたがひて
前栽の中にかくれゐて
河内へいぬるかほにて
みれば
風ふけばおきつ
しら波立田山
夜半にや君が
ひとりこゆらん
と讀けるをきゝて
そのゝちはかはち
えもゆかず
なりしとぞ