栄花物語
巻第二十四 わかばえ
今日も四條大納言、内大臣參らせたまはず。故上の御忌月なりければ、内大臣は、むげに參らざらんはおぼつかなくゆかしとて、御直衣にて内に參らせたまひて、女房のなかに交らせたまひて、衣の袖口つくろはせたまひ、髪かきなでなどさせたまふを、女房なかなかいとわびしう、身より汗あゆなどはこれをいふらんと、わびしうおぼえて、面赤む心地すれども、身は冷えたり。おほかたの有樣は、御前の御覽ずるを恥ずかしう、いかにいかにと、人のかたち、振舞よりはじめ、衣の有樣、匂ひなどを御覽ずと、わびしくおの/\思ひつゝ、この並みゐて見たまふらん目どもは、さはれ、誰とも知られたてまつらねば、【御霊會の細男のてのごひ(手拭)して顔隠したる】心地するに、この内大臣のほほ笑み紛れさせたまふぞ、いみじうわびしきことなりける。