源家長日記
俊成入道九十の賀
今年、三位入道は、九十ぢの齢になむ滿ち侍る。此の道
にかばかり巧みなる人の、今に世に殘れる事、來しかた
行く末ありがたかンめるを、去年ごろまでは御會のたび
に強々しげにて參られしが、今年となりては、少しも身
じろぎも叶はずとて、かき絶え參られず。それにつけて
も、この世の面目を極め果てさせむとおぼしめして、か
の光孝天皇の御時、花の山の僧正仁壽殿に召して、賀を
賜れるを例として、和歌所にして賀を給ふべき仰せを下
さる。霜月の廿日あまり三日と定められて、まづ屏風の
歌とて召され侍り。
春帖
霞
攝政
春霞しのに衣を織り延へていかに干すらむ天の香具山
若草
御製
下萌ゆる春日の野邊の草の上につれなしとても雪の斑消え
花
有家朝臣
今日までは梢ながらの山櫻明日は雪とぞ花のふる里
夏帖
郭公
前大納言(忠)
ほととぎす鳴くべき聲に小夜更けて臥すかとすればしのゝめの空
五月雨
雅經
亀の尾の滝の白玉千代の數岩根にあまる五月雨の空
納涼
女房讃岐
行き歸り涼みに來つゝ楢柴やしばしの秋を袂にぞ知る
秋帖
秋野
女房宮内卿
月と言へば宿る影まで待つものを露吹く暮れの野邊の秋風
月
御製
秋の月白きを見れば鵲の渡せる橋に霜の冴えたる
紅葉
前大僧正(慈圓)
ながめつる心の色をまづ染めて木の葉に移る初時雨かな
冬帖
千鳥
女房丹後
建仁三年
八月十四日 詠進
八月十五日 選定
十一月二十三日 和歌所開催
後鳥羽院御集 十二首
秋篠月清集 十二首
明日香井集 十二首
拾遺愚草 一首、勅撰集八首
拾玉集 3887~3906
俊成入道九十の賀
今年、三位入道は、九十ぢの齢になむ滿ち侍る。此の道
にかばかり巧みなる人の、今に世に殘れる事、來しかた
行く末ありがたかンめるを、去年ごろまでは御會のたび
に強々しげにて參られしが、今年となりては、少しも身
じろぎも叶はずとて、かき絶え參られず。それにつけて
も、この世の面目を極め果てさせむとおぼしめして、か
の光孝天皇の御時、花の山の僧正仁壽殿に召して、賀を
賜れるを例として、和歌所にして賀を給ふべき仰せを下
さる。霜月の廿日あまり三日と定められて、まづ屏風の
歌とて召され侍り。
春帖
霞
攝政
春霞しのに衣を織り延へていかに干すらむ天の香具山
若草
御製
下萌ゆる春日の野邊の草の上につれなしとても雪の斑消え
花
有家朝臣
今日までは梢ながらの山櫻明日は雪とぞ花のふる里
夏帖
郭公
前大納言(忠)
ほととぎす鳴くべき聲に小夜更けて臥すかとすればしのゝめの空
五月雨
雅經
亀の尾の滝の白玉千代の數岩根にあまる五月雨の空
納涼
女房讃岐
行き歸り涼みに來つゝ楢柴やしばしの秋を袂にぞ知る
秋帖
秋野
女房宮内卿
月と言へば宿る影まで待つものを露吹く暮れの野邊の秋風
月
御製
秋の月白きを見れば鵲の渡せる橋に霜の冴えたる
紅葉
前大僧正(慈圓)
ながめつる心の色をまづ染めて木の葉に移る初時雨かな
冬帖
千鳥
女房丹後
建仁三年
八月十四日 詠進
八月十五日 選定
十一月二十三日 和歌所開催
後鳥羽院御集 十二首
秋篠月清集 十二首
明日香井集 十二首
拾遺愚草 一首、勅撰集八首
拾玉集 3887~3906