仙覚律師
萬葉集註釈巻第五 第五巻 国立国会図書館蔵
47~49コマ
貧窮問答歌詞中 鼻毗之尓志可登阿良農。
ひゝしびしにしかとあらぬひげかきなでゝ
といへるはひゝしびしにしとは、ひゝし/"\にし
といふなり。かとあらぬとは、かとゝは、才の字を
よむ。よしといふ心也。かとあらぬとはよくも
あらずと云也。あさふすまひきかゝふりぬのか
たきぬありのこと/\きそへどは、ひきかゝぶり
とは、ひきかぶりと云也。かゝぶりといふ、はじめ
のかは詞の上の助也。よはきをかよはき【な】ど
いひ、ほそきをかぼそきなといふがごとし。
ぬのかたきぬとは、ひとへなりといふ心也。
かたひらともをあるかぎりとりきたれ
どもなをさむき心〔也〕やうに。
かたひらどもをあるかぎりとりきたれ
どもなをさむき心也
わくらばにとは たまさかにと云也。
ふせいほのまきいほのうちにとは、ふせいほ
はやのきなどもはらで、かたなびきなる庵
なり。まきのいほとは、すみなどもなくて、ま
ろにつくりたるいほ也。あしのまろやな
どいふこと也。
【可麻度柔播火氣布伎多弖受 この火氣布伎多弖受、古點には、ひけふきたてずと點ぜり。いさゝかきゝよからず。火氣をふけりとよめる。常の事也。けぶりふきたてずと點ずべし。】
(ぬえどりののどよびをるに)
奴延鳥乃能杼与比居尓
ぬえどりは怪鳥也。のどよびをるにとは、
まづしき家のあれたれば、ぬえどりも、
野などのやうに、なくとよめるにや。また
ある人のいふは、ぬえのなくことは怪亊なる
にとりて、のどごゑとてこもりこゑになく【は】、
ことにあしき事にすれば、のどよいをる
にとよめるにやと申す。まことにさもや
あらんしりがたし
いとのきて と云ふは、いとゞしくなと、云詞也
たかのとるいとらかこゑは とは、いとらはう
ずら也。いとうと親類相通の心にや。いと
うとかよはしていふことあり。魚うをなど
いふがごとし
〔 〕は国会図書館のみ、【 】は仙覚全集のみ。
萬葉集註釈巻第五 第五巻 国立国会図書館蔵
47~49コマ
貧窮問答歌詞中 鼻毗之尓志可登阿良農。
ひゝしびしにしかとあらぬひげかきなでゝ
といへるはひゝしびしにしとは、ひゝし/"\にし
といふなり。かとあらぬとは、かとゝは、才の字を
よむ。よしといふ心也。かとあらぬとはよくも
あらずと云也。あさふすまひきかゝふりぬのか
たきぬありのこと/\きそへどは、ひきかゝぶり
とは、ひきかぶりと云也。かゝぶりといふ、はじめ
のかは詞の上の助也。よはきをかよはき【な】ど
いひ、ほそきをかぼそきなといふがごとし。
ぬのかたきぬとは、ひとへなりといふ心也。
かたひらともをあるかぎりとりきたれ
どもなをさむき心〔也〕やうに。
かたひらどもをあるかぎりとりきたれ
どもなをさむき心也
わくらばにとは たまさかにと云也。
ふせいほのまきいほのうちにとは、ふせいほ
はやのきなどもはらで、かたなびきなる庵
なり。まきのいほとは、すみなどもなくて、ま
ろにつくりたるいほ也。あしのまろやな
どいふこと也。
【可麻度柔播火氣布伎多弖受 この火氣布伎多弖受、古點には、ひけふきたてずと點ぜり。いさゝかきゝよからず。火氣をふけりとよめる。常の事也。けぶりふきたてずと點ずべし。】
(ぬえどりののどよびをるに)
奴延鳥乃能杼与比居尓
ぬえどりは怪鳥也。のどよびをるにとは、
まづしき家のあれたれば、ぬえどりも、
野などのやうに、なくとよめるにや。また
ある人のいふは、ぬえのなくことは怪亊なる
にとりて、のどごゑとてこもりこゑになく【は】、
ことにあしき事にすれば、のどよいをる
にとよめるにやと申す。まことにさもや
あらんしりがたし
いとのきて と云ふは、いとゞしくなと、云詞也
たかのとるいとらかこゑは とは、いとらはう
ずら也。いとうと親類相通の心にや。いと
うとかよはしていふことあり。魚うをなど
いふがごとし
〔 〕は国会図書館のみ、【 】は仙覚全集のみ。