源氏物語
花宴
人はみなねたるべし、いとわかうおかしげなるこゑの、なべての人とは聞こえぬ
朧月夜ににるものぞなき
とうちずして、こなたざまにはくるものか。いとうれしくて、ふと袖をとらへたまふ。
女、おそろしと思へるけしきにて、
あなむくつけ。こはたこそ。との給へど、
なにか、うとましきとて、
ふかき夜のあはれをしるもいる月のおぼろけならぬ契とぞおもふ
とて、やをらいだきおろして、とはをしたてつ。あさましきにあきれたるさま、いとなつかしうおかしげなり。わなゝく/\、こゝに、人とのたまへど、
まろはみな人にゆるされたれば、めしよせたりとも、なむでう事かあらん。たゞしのびてこそとの給ふこゑに、このきみなりけり、とききさだめて、いさゝかなぐさめけり。
16cm x 23cm
令和元年7月2日 弐點弐