
嘉言(ヨシトキ)
ね覚する袖さへさむく秋の夜のあらし吹く也松虫のこゑ
慈圓
秋をへてあはれも露もふか草の里とふ物はうづらなりけり
通光
いり日さす麓の尾花うちなびきたが秋風にうづらなくらん 俊成女
あだにちる露の枕にふし侘てうづらなく也床の山風
とふ人もあらし吹そふ秋はきて木葉にうづむ宿の道しば
太上天皇
秋更ぬなけや霜夜のきり/"\すやゝ影さむし蓬生の月
摂政太政大臣
新古今和歌集巻第五 秋歌下 題しらず 大江嘉言
寝覚する袖さへさむく秋の夜のあらし吹くなり松虫のこゑ
よみ:ねざめするそでさへさむくあきのよのあらしふくなりまつむしのこえ
千五百番歌合に
前大僧正慈円
秋を経てあはれも露もふかくさの里とふものは鶉なりけり
よみ:あきをへてあわれもつゆもふかくさのさととうものはうずらなりけり
備考正治二年後鳥羽院初度百首だが、千五百番歌合となっている。深くと深草の懸詞。モチーフは伊勢物語百二十三段。
千五百番歌合に
左衛門督通光
いり日さすふもとの尾花うちなびきたが秋風に鶉啼くらむ
よみ:いりひさすふもとのおばなうちなびきたがあきかぜにうずらなくらむ
備考秋と飽きの懸詞。参考歌:うづら鳴く真野の入江の浜風に尾花なみよる秋の夕暮(金葉集秋歌 源俊頼)
題しらず 皇太后宮大夫俊成女
あだに散る露のまくらに臥しわびて鶉鳴くなる床の山かぜ
よみ:あだにちるつゆのまくらにふしわびてうずらなくなるとこのやまかぜ
備考床の山は、近江犬上郡の歌枕鳥籠山(現在の正法寺山)で懸詞。兼載自讚歌注。枕と床は縁語。
千五百番歌合に
皇太后宮大夫俊成女
とふ人もあらし吹きそふ秋は来て木の葉に埋む宿の道しば
よみ:とうひともあらしふきそうあきはきてこのはにうずむやどのみちしば
備考
嵐とあらじ、秋と飽きの懸詞。千五百番歌合流布本では別の歌にさし変わっている。本歌:とふ人も今はあらしの山風に人松虫のこゑぞ悲しき(拾遺集読人不知)、うちはらふ袖も露けきとこなつに嵐吹きそふ秋もきにけり(源氏物語帚木) 参考歌:見る人もあらしにまよふ山里に昔おぼゆる花の香ぞする(源氏物語早蕨)
(千五百番歌合に) (皇太后宮大夫俊成女)
(色かはる露をば袖に置き迷ひうらがれてゆく野辺の秋かな)
よみ:いろかわるつゆをばそでにおきまよいうらがれてゆくのべのあきかな
備考
千五百番歌合流布本では別の歌にさし変わっている。兼載自讚歌注。
秋の歌とて
太上天皇
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりすやや影さむしよもぎふの月
よみ:あきふけぬなけやしもよのきりぎりすややかげさむしよもぎうのつき
備考仙洞句題五十首「月前虫」。本歌:なけやなけ蓬がそまのきりぎりす過ぎ行く秋はげにぞ悲しき(後拾遺 壬生好忠)
百首歌たてまつりし時 摂政太政大臣
(きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む)
よみ:きりぎりすなくやしもよのさむしろにころもかたしきひとりかもねむ
備考正治二年後鳥羽院初度百首。百人一首。


南都大東正伝
大東正伝里村紹巴(1525年ー1602年)が10代の奈良にいる頃連歌の手解きを教えたとされるが不明。

古筆了任極
令和元年11月20日 參