尾張廼家苞 三
人におくれてなげきける人につかはしける 西行 なき跡の面かげをのみ身にそへてさこそは人の恋しかるらめ なき人とはいはで、なき跡の俤と ある。いさゝかあかぬこゝちす。穴賢。 なげく事侍ける人とはずと恨み侍ければ あはれとも心におもふほどばかりいはれぬべくはとひこそはせめ 初句ともはたゞとゝいふ意にて、もはそへたるのみ也。さ れど此もはよくもとゝのはず。せんかたなさときこゆ。 然るを此もにまどひて、初句を四ノ句へかけて注したるはいは れず。二ノ句へつゝきたる詞なるをや。此説の如く、哀と心におも いと、二ノ句につゝきたり。
ほどばかりとおもい重りたるもいかゞ。 無常の心を 入道左大臣 つく/"\とおもへばかなしいつまでか人のあはれをよそにきくべき けふは人の死ぬるなげきをよそにきく なれど、あすはわが身のうへにならんと也。 左近中将通宗がはか所にまいりて 土御門内大臣 おくれゐてみるぞ悲しきはかなさをうき身の後に(とイ)なにたのみけん 内府は通親公。通宗朝臣はその子也。一首の意、跡におくれゐて、世の無常をみるが 悲しい。かやうにはかなき人を、うき我身の跡に残りて、跡とふてくれうと、何頼みし事ぞと也。 覺快法親王かくれ侍て周忌のはてに墓所にま かりてよみ侍ける 慈圓大僧正
そこはかとおもひつゞけて来てみればことしのけふと袖はぬれける 詞書、はてとは、二夜三日などの 法事をして、終の日をいふ。 初句に墓といふもじをこめ たり。さる事 なり。但そこはかとなくとこそいへ、そこはかとおも ひつゞけてといへるは聞えぬ事なり。そこはかとおもひつゞくる とは、そここゝとおもひ つゞくる事にて、存生の時の事を、何くれとおもひつゞくる也。此哥の つゞき、よくきこえたりとおもふを、かくいはるゝは、いかなる故ならん。上下のかけ合のなき哥なり。
人におくれてなげきける人につかはしける 西行 なき跡の面かげをのみ身にそへてさこそは人の恋しかるらめ なき人とはいはで、なき跡の俤と ある。いさゝかあかぬこゝちす。穴賢。 なげく事侍ける人とはずと恨み侍ければ あはれとも心におもふほどばかりいはれぬべくはとひこそはせめ 初句ともはたゞとゝいふ意にて、もはそへたるのみ也。さ れど此もはよくもとゝのはず。せんかたなさときこゆ。 然るを此もにまどひて、初句を四ノ句へかけて注したるはいは れず。二ノ句へつゝきたる詞なるをや。此説の如く、哀と心におも いと、二ノ句につゝきたり。
ほどばかりとおもい重りたるもいかゞ。 無常の心を 入道左大臣 つく/"\とおもへばかなしいつまでか人のあはれをよそにきくべき けふは人の死ぬるなげきをよそにきく なれど、あすはわが身のうへにならんと也。 左近中将通宗がはか所にまいりて 土御門内大臣 おくれゐてみるぞ悲しきはかなさをうき身の後に(とイ)なにたのみけん 内府は通親公。通宗朝臣はその子也。一首の意、跡におくれゐて、世の無常をみるが 悲しい。かやうにはかなき人を、うき我身の跡に残りて、跡とふてくれうと、何頼みし事ぞと也。 覺快法親王かくれ侍て周忌のはてに墓所にま かりてよみ侍ける 慈圓大僧正
そこはかとおもひつゞけて来てみればことしのけふと袖はぬれける 詞書、はてとは、二夜三日などの 法事をして、終の日をいふ。 初句に墓といふもじをこめ たり。さる事 なり。但そこはかとなくとこそいへ、そこはかとおも ひつゞけてといへるは聞えぬ事なり。そこはかとおもひつゞくる とは、そここゝとおもひ つゞくる事にて、存生の時の事を、何くれとおもひつゞくる也。此哥の つゞき、よくきこえたりとおもふを、かくいはるゝは、いかなる故ならん。上下のかけ合のなき哥なり。