絵入自讚歌註 宗祇
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藤原秀能 夕月夜しほみちくらしなには江の あしのわか葉にこゆるしらなみこれは水郷春望をよめり。こゝろはあきらかなり。但このしらなみを大にはみるべからず。あしのはをこゆるほどのなみおもひはかるべし。 あし引の山路のこけのつゆのうへに ねざめ夜ふかき月をみるかな此哥かくれたる事も侍らず。たゞあし引といへる五
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文字かなふ心にこそ。其故はすゑにこと/"\しくそのことはり哀れをつくしたるに五文字又くだけてあしかるべきを大やうに云たる尤珍重なり。其山足引のといへば此旅ねの山いかにもみ山などに聞えうたのこゝろなをふかく侍るなり。 月すめばよものうき雲そらにきえて み山がくれをゆくあらしかなこれもたゞみるやうなり。ある註に都なり。名とけての心をかけり。尋べし。 草まくらゆふべのそらを人とはゞ なきてもつけよはつ鴈のこゑ
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心は明らか也。只鳴てもつけよと云詞誠にかなふ心こそ。
下もみぢうつろひゆけば玉ぼこの みちの山かぜさむく吹らし公任卿の哥に玉ぼこの道の山かぜさむからばかたみがてらにきなむとぞ思ふ。人のはなむけに衣ををくるとてよめる。それをとりてよめり。心は秌もやう/\暮やどのこずゑなどもうつろひわたりたるおり思ふ人の旅客となりて遠さかひなにへだてんを思ひやるさまあはれふかきにや侍らん。 もしほやくあまのいそやの夕けぶり たつ名もくるし思ひたえなで
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こゝろあきらか也。ある註に夕恋と云心をよめり。
袖のうへにだれゆへ月はやどるぞと よそになしても人のとへかしこれもこゝろはあらはなり。まことに心ことばめでたくしかも又あはれふかきにこそ。 露をだに今はかたみのふぢごろも あだにもそでを吹あらしかなこの哥ちゝひでむね身まかりてのちよめるとなむ。ことはり又かんせんにこそ。 山ざとのかぜすさまじき夕ぐれは このはみだれて物ぞかなしき
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此本にはこの作者の哥八首有。山家はいづくもさびしけれ共木葉のちる比はせんかたなくぞ侍らん。
今こんと契りしことをわすれずは この夕ぐれの月やまつらん此暮の月になど契てこむといひしことをわすれずは月に思立らんとの心也。すゑの二首他本に有。同註有。
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藤原秀能 夕月夜しほみちくらしなには江の あしのわか葉にこゆるしらなみこれは水郷春望をよめり。こゝろはあきらかなり。但このしらなみを大にはみるべからず。あしのはをこゆるほどのなみおもひはかるべし。 あし引の山路のこけのつゆのうへに ねざめ夜ふかき月をみるかな此哥かくれたる事も侍らず。たゞあし引といへる五


文字かなふ心にこそ。其故はすゑにこと/"\しくそのことはり哀れをつくしたるに五文字又くだけてあしかるべきを大やうに云たる尤珍重なり。其山足引のといへば此旅ねの山いかにもみ山などに聞えうたのこゝろなをふかく侍るなり。 月すめばよものうき雲そらにきえて み山がくれをゆくあらしかなこれもたゞみるやうなり。ある註に都なり。名とけての心をかけり。尋べし。 草まくらゆふべのそらを人とはゞ なきてもつけよはつ鴈のこゑ

心は明らか也。只鳴てもつけよと云詞誠にかなふ心こそ。
下もみぢうつろひゆけば玉ぼこの みちの山かぜさむく吹らし公任卿の哥に玉ぼこの道の山かぜさむからばかたみがてらにきなむとぞ思ふ。人のはなむけに衣ををくるとてよめる。それをとりてよめり。心は秌もやう/\暮やどのこずゑなどもうつろひわたりたるおり思ふ人の旅客となりて遠さかひなにへだてんを思ひやるさまあはれふかきにや侍らん。 もしほやくあまのいそやの夕けぶり たつ名もくるし思ひたえなで


こゝろあきらか也。ある註に夕恋と云心をよめり。
袖のうへにだれゆへ月はやどるぞと よそになしても人のとへかしこれもこゝろはあらはなり。まことに心ことばめでたくしかも又あはれふかきにこそ。 露をだに今はかたみのふぢごろも あだにもそでを吹あらしかなこの哥ちゝひでむね身まかりてのちよめるとなむ。ことはり又かんせんにこそ。 山ざとのかぜすさまじき夕ぐれは このはみだれて物ぞかなしき

此本にはこの作者の哥八首有。山家はいづくもさびしけれ共木葉のちる比はせんかたなくぞ侍らん。
今こんと契りしことをわすれずは この夕ぐれの月やまつらん此暮の月になど契てこむといひしことをわすれずは月に思立らんとの心也。すゑの二首他本に有。同註有。
