絵入自讚歌註 宗祇
欠落部分は、自讃歌註 - 国立国会図書館デジタルコレクションにより( )内に記載。 57コマより。
西行法師
よし野山さくらが枝にゆきちりて はなをそげなるとしもあ(るかな) こゝろは明かなり。花をいそぐ心ふかく侍(るなり。) ながむとて花にもいたくなれ(ぬれば)


ちるわかれこそかなしかりけれ なに事ももの/\にこゝろをそみゆけばつゐ にそのなごりをくるしむることはりなり。 ある註に恋の心あり。花にものもの字にてき こえ侍る花のわかれさへかなしきになれたる人 にさへわかれんことをなげくよしなり。 あはれいかに草葉の露のこほるらん あきかぜたちぬ宮ぎのゝ(はら) 秋のはつかぜに宮ぎのゝつゆを思ふ(心あさからず。) 月みむとちぎりて出しふるさ(との) 人もやこよひ袖ぬらすら(ん)

こゝろあきらかなり。 ある註にいづくにても月みむとき(はたがひに) 思ひ出よとあぢきなくちぎりをきし(心なり。後) 京極摂政の御うたにもこの心あそばし(侍るなり)
きり/"\す夜ざむに秋のなるまゝに よはるかこゑのとをざかり行 此哥きり/"\すの鳴所床ちかきこゑなどして ぞおぼえ侍る。あきらかなり。 ある註に夜ざむなればきり/"\家ちかくやかげ をたのみてきつるに又日〃夜〃にこゑのよ はればとをざかり行こゑのあはれなりと也。


つの国のなにはのはるは(夢なれや) あしのかれ葉に風わた(るなり) 此哥は春の空にあしのわか葉の(もえ出しを) 冬がれのころあらゝかにかぜうち吹た(る比思ひつゞ) けていへり。なにはの春とはよの中(のさかりも) 夢とそぐわんするよしなり。あしのは(のうへばかり) にては名哥にはなりがたく候 としたけて又こゆべしとおもひ(きや) いのちなりけりさよの中山 心はあきらか也。たゞ西行のうへをよく/(\おもひ) て此うたをみ侍らばそのかんあるべきに(こそ)

ある註に西行二度東修行のときの(うた也。) ことはりふかく秀逸なり。
風になびくふじのけぶり空にき(えて) ゆくゑもしらぬわがおもひかな このことはりあきらかなり。 山ざとにうき世いとはん友も(がな) くやしくすぎし昔かたら(ん) これもこゝろはあきらかなり よし野山やがて出じとお(もふ身を) はなちりなばと人やまつ(らん) このうたもこゝろあきらかなり。

(此十首心ことば思ひのまゝへいくわいにいたく) (しかもまいしゆ其かんふかき事おほかたの哥) (人のおよぶ所にあらず。されば京極黄門は) (天下の哥を西行よみなをしたるといへり。く) (れ/"\しんぺんの哥人にこそ)
終わり
