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尾張廼家苞 羇旅歌4

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尾張廼家苞 三


 は誤也。(わすれね人をは、人を忘れねといふ事。打かへして         語勢をそへたる也。此集の比の哥に多し。    )結句はさやと  いふ詞にいひかけたり。さやはさやうにやは也。(さやうにやは恋し                                   のぶべきといふ事  を、さやと斗い  ひてはきこえず。)一首の意は、嵐の声も故郷にて聞しには  似ずかはりたるに、さのみやは故郷人をわすれず恋しのぶ  べき。今は故郷人の事を忘れよかと、我心にいふ也。(いたく                                       たがひ  たるにおあらねど、さやはさやうにやはと説るゝ故、むづかしき也。上ノ句は故郷の  なごりの薄らぎたる意。しかなごりがうすらげば、人をもわすれ安き也。  一首の意は、さやの中山の旅ねにきけば、故郷にて聞しあらしの音とは  似つかずかはりて、なごりもうすらぎたるほどに、今はおもふ人をもわすれよかし  と也。四ノ句を結句にし  てこゝろうべし。  )又おもふに、上句にあらしの音さへかはり  ぬれば、人の心もさぞかはりぬらん物を、(かくさまにむづかしくみるは、                               哥のためわろき事也。)  といふ心も有べきか。哥にしの心はかりがたし。

               雅經 白雲のいくえの嶺もこえつらんなれぬあらしに袖をまかせて  あらしに袖をまかせてとは、嵐のふくまゝにふかれて行を云。  一首の意は、なれぬあらしが、袖ひくやうに吹故、それまかせに行〃て、  白雲のたつ嶺をいくつ越た事やらんと也。都にては、物ふかき第宅  の中にゐて、嵐の  あらきになれぬ也。                家長 けふは又しらぬ野原に行くれぬいづれの山か月はいづらん  初句又は下へつゞけて心うべし。日〃にかはる意あり。下句  月のいづる方さへしられぬさまあはれ也。方角をたがへし                              意にはあらず。い  づれの山とはしらぬ野原ゆゑ、山の名もしらぬ也。一首の意は、しらぬ  野原に日をくらしたり。さて今宵は何と云山から月が出る事やらんと也。



  和哥所哥合に羇中暮                俊成女 ふるさとも秋はゆふべをかたみに(とイ)て風のみおくるをのゝしの原  初句、もゝじは遠くへだゝり来ぬる故郷もの心なり。  もは故郷からも  のこゝろのも也。二三の句は、秋はかならず夕ぐれに風の吹  物なれば、秋とても風のふかぬ夕もあるべければ、            此哥はたま/\風のふく夕なり。  其夕風が形  見にて、袂は夕をかたみにてといふ本ありしなるべし。        とは普通の印本に、かたみとてとあるに依る。故郷の方  より我をおくり来るよし也。 風のみといへば、風  より外には(故郷の)かたみにすべき物なきよし也。さてのみ  の下へはもじを入て心得べし。 をのゝ篠原は

 風に縁はあれども、少しはたらかぬ心地す。(一首の意は、                                 故郷からも  音づれもなく、ふみ一ツ贈らずして、秋は其文のかたみにとて、此をのゝ  篠原の夕風ばかりを贈りあたふと也。風は故郷より贈あたふる  物にはあらねど、これを音書のやうにいひなしたる也。又故郷の音づれの  なき事詞のうへにはなけれど、風のみ贈るとある。のみといふ字より  きこゆ。先生は風のみ送ると説れたり。故郷は遠くへだてり来つる  旅の事なれば、故郷人の送らぬはもとよりなる故、風のみ送るとある  のみといふもじいかゞ也。いづれ  にもむづかしきうたなり。   )                雅經
いたづらにたつや浅間の夕けぶり里とひかねる遠近の山  いたづらにとは、俗にむだなといふ。              用にたゝぬ事也。宿かるべき里のけぶり  ならば、しるべとなるべきに、それは山の上の烟にて里  とふしるべにもならざる故にいふなり。夕煙は



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