顕昭
水ぐきの岡のくず葉も色づきてけさうらがなし秋の初風
めでたし。詞もすべてめでたし。 上句、万葉十に、√水ぐ
きの岡のくず葉も色付にけり。 四の句は、後拾遺秋上、√まく
ず原玉まく葛のうら風のうらがなしかる秋はきにけり。
うらは、葛の縁の詞なり。
越前
秋はたゞ心よりおく夕霧を袖のほかともおもひけるかな
四の句に袖といへるにて、二三の句の、心よりおく露は、涙なること
をしらせ、三の句に露といへるにて、四の句の袖の外は、草葉の露な
ることをしらせたり。かやうの所はたらき也。心得おくべし。
一首の意は、秋のほど、露のしげきは、たゞ物おもふ心より
おく、袖の涙なる物を、草葉のうへとのみ思ひけることよとなり。
後撰集に√我ならぬ草葉もものはおもひけり袖よ
り外におけるしら露。
五十首哥奉りし時秋の哥 雅經
きのふまでよそに忍びし下荻の末葉の露に秋風ぞふく
めでたし。下句詞めでたし。 二三の句、よそへは聞えぬやう
に、しのびて、下にのみ吹し荻の風なり。 下句、末葉といひ
露といへる、皆あらはれて吹ク意にて、上句に、よそに忍びし
下荻といへるに、よくかけ合たり。 或説に、二の句を、荻の
よそに吹しといへるは、下荻の云〃にとある。詞のつゞきにかなはず。
だいしらず 西行
あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風たちぬ宮城野の原
詞めでたし。 秋風の立ぬるにつきて、宮城野をを思ひ
やれるなり。結句を、初句の上へまはして、みやぎのゝはらは、
あはれいかに云々。と心得べし。
崇徳院に百首哥奉ける時 俊成卿
みしぶつきうゑし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり
本哥万葉八に、√衣手にみしぶつくまで植し田を引板我
はへ守れるくるし。 夏みしぶつきて、袖ぬれて植し田
をもるとて、秋も又露に袖ぬらすよしなり。 三の句は、たゞ
庵にゐてもるさまをいへるのみ也。それにとりて、ひたはへは袖
ぬらすにはうとき詞なれども、本哥の詞なり。
荻の葉も契りありてや秋風の音づれそむるつまとなるなむ
詞めでたし。 初句、も°ゝじは、は°といふべきを、も°といへるは、
秋風の、荻の葉にまづおとづれそむるも、契有てのことにや、
といふ意なればなり。 ちぎりは、俗にいはゆる因縁也。
つまとは、夫婦たがひにいふつまと、もと同じ意にて、あてどこ
ろとなりて、むかふ物をいふ。