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尾張廼家苞 恋歌二6

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尾張廼家苞 四之上


 らん物をとしては、詞のうへも風流  に餘情かぎりなき物をや。    けしきといへる、此集のころの  歌におほし。文字ごゑ           にあらず。    かたらひ侍ける女の夢にみえて侍ければ                後德大寺左大臣 さめて後夢なりけりとおもふにも逢は名残のをしくやはあらぬ (一首の意は、おもふ人にあふと夢にみて、其夢がさめてから、さて今あふたのは  夢でありしなとおもふ、それほどの事でも、あふとさへいへば、はては名残がおしいと也。)    千五百番歌合に     摂政 身にそへる其おもかげもきえなゝん夢なりけりと忘るばかりに  夢なりけりといふ詞のいきほひは、夢にてありけるよと  いはんがごとし。(一首の意は、我身に面かげがそふてゐる故わすれら               れぬが、その面かげもきえよかし。さては恋する夢みて)
(有たなとおもふて  忘れるやうにと也。)    五十首歌奉りし時    前大納言忠良 たのめ置し浅茅が露に秋かけて木葉ふりしく宿の通路  本、歌、いせ物語、秋かけていひしながらもあらなくに木葉ふり  しくえにこそありけれ。秋かけてといへる、本歌の詞なれば、  なくてかなはざれども、此歌にてはかなひ難し。其故は、すべて  かけてとは,前より後をかくる事を云詞なれば,秋かけては,夏より  秋をかけてニて、俗言に秋へむけてといふ詞なるに、木葉ふり しくは時節たがへれば也.木葉は夏より秋へかけてちる物にはあらざる  をや。よみぬしの心は、木葉は冬の初ちる物なるが、秋の末よ
 りもかつ/"\ちる意にや。されどさやうに後より前をかくる事を  かけてといふ例、ふるくはなき事にて,(げにこれは古くはなき事にやあらん.                           後より前をかけたるといへる古歌ふと  もえおもひいでず。もしさる例なくて、此歌のつみにや  あらん.いとめでたき哥なるを,心ぐるしき事也.)ことわりも叶はず.(ことわりは、兼官                                   をかけづかさと云  かけにて、兼る義也。冬ひるべき木葉の秋をも兼てちる也とせばよろしかるべき歟。それも  秋より冬をかぬるとはいふべく、冬より秌をかぬるとはいふまじきにやあらん。)    摂政家百首歌合に    中宮大夫家房 あふ事はいつといぶきの嶺におふるさしも絶せぬおもひなるらん (いぶきの嶺へいつといふといひかけ、さしも草をさしも絶せぬといひかけたる斗の  文章なり。一首の意は、あふ事はいつといふ事もなくて、何で此やうにおもひが絶  せぬやらんと也。おもひニ  火をもかねたるか。   )                家隆朝臣 ふじのねの烟もなほぞ立のぼるうへなき物はおもひなりけり


(ふじのねの烟でも、まだ上があればこそ、やはり立のぼる。  又うへもなきものはわがおもひぞと也。思ひに火をよせたり。)    百首歌の中に      惟明親王 あふ事のむなしき空の浮雲は身をしる雨の便なりけり (身をしる雨とは、我身の数ならぬ事をおもひて落す涙なり。  浮雲にうきをそへたり。便はその縁にてといふほどの事也。)                通具卿 我こひはあふを限のたのみだに行へもしらぬ空のうき雲  本哥我こひは行へもしらず(はてもなしあふを                     限とおもふ斗ぞ)云〃。本歌には  あふを限とおもふとあるを、(こゝろはおなじ事ながらも、本歌                    には云〃といはるゝがむづかしき也。)そのた  のみだになきよし也。薄雲はゆくへもしらずきえ行物  なれば也。(一首の意は、我命は、あふをかぎりとおもふてゐるが、           まだあはぬうちにしぬるかもしれぬとなり。   )

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