摂政大将に侍けるとき百首哥よませ侍けるに
寂蓮
かさゝぎの雲のかけはし秋くれてよはには霜やさえ渡るらん
鵲の雲のかけはしとはいかゞ。雲井のといふことなるべきを、
さはいひがたき故の、しひごとなるべし。 又古哥に√おく
霜の白きを見ればとあれば、其うへをめづらしくいはむ
こそほいならめ。たゞ霜やさあえ渡るらんとのみにては、いと
よわく、何の詮もなし。渡るといふ橋の縁のみ也。
最勝四天王院の障子に鈴鹿川かきたる所
太上天皇
すゞか川ふかき木葉に日数へて山田の原の時雨をぞきく
入道前関白太政大臣家に百首哥よみ侍
けるに紅葉 俊成卿
心とやもみぢはすらん立田山松はしぐれにぬれぬものかは
百首哥奉りし時 宮内卿
立田山あらしや峯によわるらんわたらぬ水も錦たえけり
めでたし。二三句詞よろし。
左大将に侍し時家の百首哥合に柞
摂政
はゝそはら雫も色やかはるらん杜のした草秋ふけにけり
定家朝臣
時わかぬ波さへ色にいづみ川はゝその杜にあらし吹らし
めでたし。上句詞めでたし。 古哥に√波の花にぞ秋
なかりけるとある波さへ、秋の色に出る也。 波の色に
出るは、紅葉のながるゝなれば、川となる柞の杜に、あらしの
吹らんことを、思ひやれる也。 哥合判に、嵐や、上句にこ
とに相應せず侍らんとあるは、いかゞ。
百首哥奉りし時秋のうた 式子内親王
桐の葉もふみ分あたくなりにけりかならず人をまつとなけれど
めでたし。 √我やどは道もなきまであれにけりつれな
き人をまつとせしまに。 必しも此本哥のやうに、つれ
なき人をまつ宿にはあらねどもと也。 初秋に一葉おち
そめたる桐の葉の、ふみわけがたきまで、ちりつもるは、秋の
いたくふけたるよしなり。
千五百番哥合に 家隆朝臣
露しぐれもる山陰の下紅葉ぬるともをらん秋のうたみに
めでたし。詞めでたし。 本哥√しら露もしぐれも
いたくもる山は云々。 四の句√ぬれつゝぞしひて折ける
云々の意あるべし。さてその春を、秋にかへ用ひて、秋の
かたみにとはとぢめたるべし。
書き込み
※欄外(かささぎとすゞか川の間)
桜の紅葉はじめたるを
みて 中務具平親王
いつの間に紅葉しぬらむ
山ざくら昨日か花のちる
をゝしみし(0523)
紅葉透霧といふことを
高倉院御製
うすぎりの立まふやまの
紅葉はさやかならねど
それと見えけり(0524)
秋歌とてよめる
八条院高倉
神なびのみむろの梢い
かならむなべてのやまも
しぐれすること(0525)
※欄外(心とやと立田川の間)
大井川にまかりて紅葉見
侍りけるに
藤原すけたゞ朝臣
思ふことなくてぞみまし
紅葉を嵐のやまの
ふもとならずば(0528)
題しらず
曽根好忠
入日さすさほの山べの
柞原くもらぬあめと
木葉ふりつゝ(0529)
※欄外(時わかぬと桐の葉もの間)
障子の絵に荒れたる宿に
もみぢ散りたる処をよめる
源俊頼朝臣
ふる里はちる紅葉する
うづもれて軒のしのぶに
秋風ぞ吹く(0533)
※欄外(桐の葉もと露しぐれの間)
題しらず 曽根好忠
人はこず風に木のはゝ
散はてゝよな/\虫は
こゑよわるなり
守覚法親王五十首
の歌よみ侍りけるに
春宮権大夫公継
もみぢ葉のいろに委て
ときは木も風にうつ
ろふ秋の山かな
※かささぎの
先ニハ彦星ヲ渡シタルニ長月末ニモナレバ彦星ハ渡ラズソ霜ノミサエ渡ルト
※心とや
ヨリ他ノ木ハ 松モ同ジ様ニ時雨ニヌルモチレドソレモ色モカハテヌヲ見レバコト木ハ皆
心ヨリシグレスルモノ也。