西行白洲正子
願はくは花のしたにて春死なん……伝説化された歌聖、西行の人生を辿り、その真実を解き明かす
新潮社版
西行の真価は、信じがたい程の精神力をもって、数奇を貫いたところにあり、時には虹のようにはかなく、風のように無常迅速な、人の世のさだめを歌ったことにあると私は思う。 *彼は空気のように自由で、無色透明な人物なのである。したがって、とらえどころがないばかりか、多くの謎に満ちている。 *
ーー西行の謎は深まるばかりである。わからないままで、終わってしまうかも知れない。それでも本望だと私は思っている。わからないことがわかっただけでも、人生は生きてみるに足ると信じているからだ。 (本文より)
「芸術新潮」昭和六十一年四月~六十二年十二月に連載