八十三段 小野の雪?
八十五段 雪に降り込められたり?
八十五
昔男有けり。わらはよりつかふまつりける君御ぐしおろし給ふ
てげり。む月にはかならずまふでけり。おほやけの宮づかへしければ
つねにはえまふでず。されど、もとの心うしなわで、まふでけるにな
む有ける。昔つかふまつりし人ぞくなるぜんじなるあまた参り
あつまりて、む月なれば事だつとて、おほみき給ひける。雪こぼす
がごとくふりて、ひねもすにやまず。みな人ゑひて、雪にふりこめられ
たりといふを題にて、哥有けり。
古今
思へども身をし分ねばめかれせぬ雪のつもるぞわが心なり
と読りければ、みこいといとう哀れがり給ふて、御ぞぬぎて給へりけり。
八十六
昔いと若き男若き女をあひいへりけり。をの/\親有ければ、つゝみて
云さして止にけり。年比へて、女の許になを心ざし果さんとや思ひけん、男哥を読てやりけり。
新古今
今までにわすれぬ人は世にもあらじ己がさま/"\年のへぬれば
とてやみにけり。男も女もあひはなれぬ宮づかへになん出にける。
新古今和歌集 巻第十五 恋歌五
題知らず よみ人知らず
今までに忘れぬ人は世にもあらじおのがさまざま年の經ぬれば
よみ:いままでにわすれぬひとはよにもあらじおのがさまざまとしのへぬれば 隠
意味:今までに昔の恋人の事を忘れない人は世の中にいないでしょう。お互い様々な生活してきて、何年も経ったのだから。貴女は忘れてしまったでしょうが、私は忘れてはいない。
備考:伊勢物語、古今六帖。