
たる者は、とめるをたうとみねんころな
るを先とす。かならすしも情あると
直成とをば愛せず。たゞ糸竹花月
を友とせんにはしかず。人の奴たるものは
賞罰のはなはだしきをかへりみ恩の
あつきをおもくす。更にはごくみあはれ
ぶといへどもやすく閑なるをばねかは
ずたゞ我身をやつことするにはしか
ず。もしすべきことあれば則をのづから
身をつかふたゆからずもあらねど
人をしたがへ、人をかへりみるよりはやすし。
たる者は、富めるを尊み懇ろなるを先とす。必ずしも情けある と、素直なるとをば愛せず。ただ、糸竹・花月を友とせんには しかず。人の奴たる者は、賞罰のはなはだしきを顧み、恩の あつきを重くす。更に、はごくみ、あはれぶといへども、易 く閑かなるをば願はず。ただ、我が身を奴とするにはしかず。 もし、すべき事あれば、則ち、自ずから身を使ふ。たゆから ずもあらねど、人を従へ、人を顧るよりは易し。 (参考)前田家本 たるものは、富める貴み、懇ろなるを先とす。必ずしも情けある と素直なるとをば愛せず。ただ紫竹花月を友とするには しかず。人の奴たる者は賞罰はなはだしく、恩顧 あつきを先とす。更にはぐゝみあはれぶと、やす くしづかなるをば願はず。ただ、我が身を奴婢とするにはしかず。 いかゞ我が身を奴婢とするとならば、もしなすべき事あれば、すなはち己が身を使ふ。たゆから ずしもあらねど、人を従へ人を顧みるよりは易し。 (参考)大福光寺本 アルモノハトメルヲタウトミネムコロルヲサキトス。必スシモナサケアル トスナホナルトヲハ不愛。只糸竹花月ヲトモトセンニハ シカシ。人ノヤツコタル物ハ賞罰ハナハタシク恩顧 アツキヲサキトス。更ニハクゝミアハレムトヤス クシツカナルトハネカハス。只ワカ身ヲ奴婢トスルニハシカス。 イカゝ奴婢トスルトナラハ若ナスヘキ事アレハスナハチヲノカ身ヲツカフ。タユカラ スシモアラネト人ヲシタカヘ人ヲカヘリミルヨリヤスシ。

