歌論 無名抄 諸浪名事
諸浪名 なみの名はあまたあり。のりつな入道がいひけるとて 人のかたりしはおなみさなみさゝらなみはうのてか へしはまならしといふみなこれなみの名也。と いひけれどいかなるをしかいふとわきてはいはざり けり。これはその国のその所にとりていふことに て侍にや。哥などはいともみをよび侍らず。 顕昭にとひ侍しかばさなみさゞなみさゝら なみといふことあり。これはみなちゐさきなみの...
View Article鴨長明方丈記之抄 仮の庵1 数ならぬ類ひ
ならぬたぐひ、盡してこれをしるべか らず。たび/"\の炎上にほろびたる家 又いくそばくぞ。たゞかりの庵のみの どけくして恐なし。程せばしといへども 夜ふす床あり。昼居る座あり。一身 をやどすに不足なし。がうなは、ちいさき かひをこのむ。これよく身を知るによりて なり。みさごは荒磯にゐる。すなはち 人をおそるゝにより也。我又かくのごとし。 身をしり世をしれらば、願はずまし...
View Article鴨長明方丈記之抄 仮の庵2 愁無きを楽みとす
なきを樂とす。すべて世の人の住 家を作るならひ、かならずしも身の ためにはせず。或は妻子眷属の 為につくり或は親昵朋友のために 作る或は主君師匠及財寶馬 牛のためにさへこれを作る。我今身の 為にむすべり。人の為につくらず故 いかんとなれば今の世のならひ、此身の有 様、ともなふべき人もなくた。のむべきや つこもなし。たとひひろくつくれり共 誰をかやどし誰をかすへん。それ人の友...
View Article和漢朗詠集 落葉 含秋歌下人麻呂 元禄五年本
しらつゆもしぐれもいたく〔も〕るやまは した葉のこらずもみぢしにけり 貫之 むら/\のにしきとぞみるさほやまの はゝそのもみぢきりたゝぬまに 清正 落葉 愁賦 三秋而宮漏正長空階雨滴万 里而郷園何在落葉窓深 〔白〕 秋庭不掃携藤杖閑踏梧桐黄葉〔行〕 〔白〕 城柳宮槐漫搖落秋悲不至〔貴人心〕...
View Article鴨長明方丈記之抄 仮の庵3 富めるを尊み
たる者は、とめるをたうとみねんころな るを先とす。かならすしも情あると 直成とをば愛せず。たゞ糸竹花月 を友とせんにはしかず。人の奴たるものは 賞罰のはなはだしきをかへりみ恩の あつきをおもくす。更にはごくみあはれ ぶといへどもやすく閑なるをばねかは ずたゞ我身をやつことするにはしか ず。もしすべきことあれば則をのづから 身をつかふたゆからずもあらねど 人をしたがへ、人をかへりみるよりはやすし。...
View Article唐詩選画本 七言絶句五 五言絶句五 蔵書
唐詩選畫本 七言絶句 五 寛政元年己酉の秋九月 嵩山房小林髙英識 寛政二庚戌正月出板 杉田金助判 寛政元年(1789年) 〔唐詩選畫本 五言絶句 五〕 天明戊申之臘 嵩山房小林高英識 杉田金助判 天明戊申(八年 1788年)
View Article鴨長明方丈記之抄 仮の庵4 もし歩く事あれば
若ありくべきことあればみづからあゆむ 苦しといへ共馬鞍牛車と心をなや ますには似ず今一身を分ちて二の用 をなす。手のやつこ足の乗物よくわが 心にかなへりこゝろ又身のくるしみをし れらば、くるしむ時はやすめつ。まめなる 時はつかふつかふとてもたび/"\過さず ものうしとても心をうごかす事なしいか に况やつねにありき常に動くは これ養生成べし何ぞいたづらにやす みをらん人を苦しめ人を悩ますは又...
View Article唐詩選画本 思君恩 令狐楚 蔵書
おもふくんおんを れいこそ 思君恩 令狐楚 せうゑんあうかやんでちやうもん 小苑鶯歌歇長門 てふふおほしめにみるはるまた 蝶舞多眼看春又 さることをすいれんかつてすよぎら 去翠輦曾不過 此しはきうゑんのていなり。せうゑんのはなばたけにはうぐひ すのこゑもやみちやうもんきうにはてふがまひ見て ゐる。うちにちるはくれゆけどもこのはるもきみのて...
View Article鴨長明方丈記之抄 仮の庵5 罪業なり
罪業也いかゞ他の力をかるへき。衣食の たぐひまたおなじ。藤の衣麻のふすまう るにしたがひてはだへをかくし野邊の つばな峯のこのみ命をつぐばかり也 人にまじはらざれば姿を恥る悔もなし かてともしければ、をろそかなれども猶 味をあまくすすべてかやうの事たの しく富る人に對していふにはあらず たゞ我身一にとりて昔と今とをた くらぶ也大かた世をのがれ身を捨し より、うらみもなくおそれもなし命は...
View Article唐詩選画本 登柳州蛾山 柳宗元 蔵書
のぼるりうしうのがさんに りうそうげん 登柳州蛾山 柳宗元 くはうざんしやうじつごなりひとりのぼりてこゝろいう/\ 荒山秋日午獨上意悠悠 いかんぞのぞむきやうをところせいほくこれゆうしう 如何望郷處西北是融州 あきの日ひるのころひとりあれはてたるやまにのぼりてみれ ばはてしもなきおもひなる。いさやこきやうのかたをみんと...
View Article鴨長明方丈記之抄 余算山の端1 天運に任せて
天運にまかせておしまずいとはず身をば 浮雲になずらへて、頼まずまだし とせず一期のたのしひはうたゝねの枕 の上にきはまり生涯の望は折〃の 美景に残れり。それ三界はたゞ心一 なり心若安からずは牛馬七珍も由 なく宮殿望なし今さびしき住ゐ一 間の庵みづからこれを愛す。をのづ からみやこに出ては乞食となれることを はづといへどもかへりて爰に居る時は 他の俗塵に着することをあはれぶ...
View Article歌論 無名抄 あさりいさり差別事
アサリイサリノ差別 或人云あさりといひいさりといふは同事也。 それにとりてあしたにするをばあさりと なつはゆふべにするをばいさりといへり。東の あまの口仗也云々。まことにけふあること也。...
View Article唐詩選画本 秋風引 劉禹錫 蔵書
しうふうのいん 秋 風 引 りううしやく 劉 禹 錫 何處秋風至蕭ゝ 送鳫羣朝來入庭樹 孤客最先聞 いづれのところかしうふういたる。しやう/\としてがんぐんを をくる。てうらいていじゆにいつて、こかくもつともまづきく。 いづれの所から秋風がふくやらものさびしくつらなるかりをゝくるはさは庭のはやしに...
View Article鴨長明方丈記之抄 余算山の端2 もし人このいへる事を
もし人此いへることをうたがはゞ魚鳥の 有様を見よ魚は水にあかずうほに あらざれば、其心をしらず鳥は林を ねがふ。鳥にあらざれば其心をしらず 閑居の気味も又かくのごとし住ずして 誰かさとさん抑一期の月影かたぶ きて餘算山の端にちかく忽に三 途のやみにむかはん時何のわざをかか こたんとする仏の人を教給ふおこりは、 事にふれて執心なかれと也今草の庵 を愛するも科とす。閑寂に...
View Article唐詩選画本 鞏路感懷 呂温
きやう 鞏 ろの 路 かん 感 くはい 懷 りようん 呂温 馬嘶 白日暮劔 鳴秋氣来 我心渺無 際河上 空徘徊 むまいなゝいてはくじつくれ、けん なつてしうきゝたる。わがこゝろ ひやうとしてかぎりなし。かじやう むなしくはいくはいす たびぢをまいひ/\ あるいているかけふもはや なくれにおりつるも、つかれ ていなゝき、秋の夕風 てさむ/"\おひたるけん...
View Article鴨長明方丈記之抄 余算山の端3 閑寂に着するも
着するも障なるべし。いかゞ用なき楽 しみをのべてむなしくあたら時を過 さん。しづかなるあかつき此ことはりをお もひつゞけて、みづからこゝろにとひ ていはく世をのがれて山林にまじいる は、心をおさめて道ををこなはん為也。 しかるを汝が姿は聖に似て心はにごり にしめり。住家は則浄名居士の跡 をけがせりといへどもたもつところは わづかに、周梨槃特が行にだにも 及ばずもし是貧賤の報のみづから...
View Article唐詩選画本 古別離 猛郊
こ べつり 古別離 もうこう 猛郊 欲別牽郎衣郎今到何處不恨 歸来遅莫向臨卬去 わかれんとほつしてらうがころもをひく。らういまいづれのところに いたる。きらいのをそきをうらみず。りんかうにむかつてさることなかれ。...
View Article鴨長明方丈記之抄 余算山の端4 自ら悩ますか
悩ますか。将又妄心のいたりてくるはせ るか其時心更に答ふることなしたゞ、 傍に舌根をやとひて不惜の念佛 兩三反を申てやみぬ。時に建暦の二 とせ弥生の晦比桑門蓮胤外山 の庵にしてこれをしるす。 月かげは入山の端もつらかりき たえぬひかりを見るよしもがな 悩ますか。はた又、妄心の至りて狂はせるか。その時、心 更に答ふる事なし。ただ、傍に舌根をやとひて、不請の 念仏両三返を申して止みぬ。...
View Article唐詩選画本 尋隠者不遇 賈島
たづぬるいん 尋隠 じやをず 者不 あは 遇 こ とう 賈島 松下問 童子言 師採藥 去只在 此山中 雲深不 知處 しやうかどふじ にとふ。いふしは くすりをとりに さる。だゞこのさん ちうにあらん。 くもふかふして ところをしらず。 山に、世をのがれ たる人をたづねて きてみれば、うちに いず。あたりの松の もとにいるうしかい わらはにとへば、けふは くすりをとりに...
View Article和漢朗詠集 露 含秋歌上家持 元禄五年本
もみぢせぬときはのやまにすむしかは をのれなきてや秋をしるらむ 能宣 ゆふづくよをぐらの山になくしかの こゑのうちにやあきはくるらん 貫之 露 白 可憐九月初三夜露似真珠月似弓 源英明 露滴蘭叢寒玉白風銜松葉雅琴清 さをしかのあきたつをのゝあきはぎに たまとみるまでをけるしら露 家持 霧 拾遺集...
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