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八雲御抄 正義部 歌合子細(上) 蔵書

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八雲抄巻第一 正義部

 

 

 

 

 

哥合子細 難事也

一 一番左は、可然人得之。但、髄題能因孝善(然人家忠)例也。一番

左哥は不可負。先例負も多為持。右勝事、弘徽殿女御

哥合(義忠判)左相模負、侍従乳母。又、法性寺関白家哥合、左

俊頼負、右源定信云作者、旁不可為例。其外小野宮大

臣哥合有例歟。非普通事。仰雲泥事古來不及左右事

歟。句並ぬるは、普悪不為病わざと詠也。上古、中古それを

も稱とも無其謂。哥の一躰之。俊頼も不為病歟。仲實又同。

かすが山岩ねの松は君がため

ちとせのみかはよろづ代ぞへん

並句不為難

一 同心病は、為難。同事の二所に有也(隔句也)。其外、乱思、欄蝶、

渚鴻、花橘、老楓、後悔等病は、唯わろくこそあれ共不為

難。中飽も不為難也。又、岩樹、風燭、浪舩、落花(已上四病)、頭尾、
                   上下句終   上下
胸尾、膞尾、靨子、遊風、全不為病。聲韻(同字並也)牛頭(句上)
同字
並也)毎句同字三四などあるは、雖不為病非最上。一首同

字多をも或稱病。但、今古流例也。牛頭病は、天德哥合

中務詠之。非強難とて為持。遍身病事、康資母幼少聞

侍しかば、輔親云、「同字三は、いかゞせん。四あるは公所には不可

出之。然而能宣、寛和哥合詠、『春のくる道のしるべはみ

よしのゝ」、貫之、「木の下風」も鶴膝病也。惣勿論事

也。但、五・六は、雖非病尤聞悪也。又、終は字非沙汰限。俊成

曰、「哥合には同字四あるなど、古は、咎ぞたり」も有。「の」

字四あるは、咎と不聞。

一 祝哥は勝也。神社の名を詠ずる又同。四条宮哥合二

番左春日祭、右七夕是持也。永承四年哥合一番、「春日

山」をよめり。于時、大二条関白云、「いかでかまくべき」とて無

左右勝と定。宇治関白有甘心氣。非判者、非哥人とも以

斟酌稱之。祝哥負事、長元に長家が、「夏の夜も涼し

かりけり」、秀逸之上、一番左なればとて、赤染が「よの

くもりなくすめば」負畢。又、應和二年哥合、野宮哥

合祝哥負畢。是も哥がらむげならん上は、不及子細歟。

一 哥合には、遠国名所詠たるをば、或為難例今代多、上

古も有例。是等は、あまりの事也。但、同名所は、すこしは可

用意。月題には、とをけれ共、俊頼もをばすて山とよ

み、基俊もさらしなの月とよめり。ともに哥合なれども

無難。只、可依事。承暦にきびの中山多き名所をゝき

ながらと難ず。有其謂。野宮哥合のくらぶ山同之。又

德大寺左大臣、「花に末の松山」とよめり。顕季難之。根合

のあさかのぬまは、誠不可逢。今日事尤難なり。唯、四季

哥などには、皆詠之習也。

一 「てる月のをのが光」といへる、をのがを俊成難之。誠無詮詞也。

一 同心は可去之。所謂伊勢大輔が、「小夜ふけて旅の空

にて鳴鴈はをのがは風やよざむなるらん」などいふ

事なり。定文哥合、「みぬ人の恋しきやなぞおぼつかな

誰とかしらん夢にみゆとも」いへるをば、或不為病云々。

是も病なり。よひとよとは、或は暮と書とて不為病。

万葉には、初夜ともかけり。同心同詞、尤病也。長元歌

合、能因が哥、公任依病不指南。亭子院哥合、是則が

「みちとせになるてふもゝのことしより」為難。

一 同事をよみたる、或憚之。可憚歟。尤無由。承暦孝善

霞籠与隔難。但經信記、非病云々。能宣「さはべの芦

のしたねとけ汀萌出る」などいへるを、後代に、經信稱

病之。能々可思惟事歟。

一 岩樹病猶可去歟。左大將哥合(後京極殿)俊成判、袖の雪

空もとよめる聊難(定家哥)定て兼日令見歟。非深咎歟。

 

 

※読めない部分は、国文研鵜飼文庫を参照した。

※かすが山 後拾遺和歌集巻第七 賀歌 能因法師 452 永承四年内裏歌合

※同心…乱思、欄蝶、渚鴻、花橘、老楓、後悔等病…中飽 八病

※頭尾、胸尾、膞尾、靨子、遊風 七病

※春のくる 後拾遺和歌集巻第一 春歌上 大中臣能宣 5
はるのくる道のしるべはみ吉野の山にたなびく霞なりけり

※木の下風 拾遺和歌集 亭子院歌合 紀貫之
桜ちるこの下風は寒むからで空に知られぬ雪ぞふりける

※永承四年 上記かすが山。

※夏の夜も 後拾遺和歌集巻第三 夏歌 長家 賀陽院水閣歌合 行経 224
夏の夜も涼しかりけり月影は庭白妙の霜とみえつつ

※よのくもりなく 金葉集初度本、二度本 よみ人知らず 三奏本 赤染衛門 賀陽院水閣歌合 赤染右衛門 やどがらぞ月の光もまさりけるよの曇りなくすめばなりけり

※をばすて山 保安二年関白内大臣歌合 二番左 持 源俊頼
今宵しもをばすて山の月をみて心の限り尽しつるかな

※さらしなの月 元永二年内大臣歌合 十番右 持 藤原基俊
なくさむるほどこそなけれ宵のまに分けて入りぬるさらしなの月

※きびの中山 承暦二年内裏歌合 二番左 持 藤原家忠
谷川の音はへだてず真金ふくきびの中山霞こむれど

※野宮哥合くらぶ山 天禄四年野宮(女四宮)歌合 をみなへし 持 有ただの朝臣
くらぶ山ふもとの野辺のをみなへし露の下よりうつしつるかな

※末の松山 不明。

※あさかの沼 不明。ただし、中宮権大夫家歌合 斎院摂津君 
あやめ草あさかの沼におふれどもひく根はながきものにさりける

※てる月の 不明。

※小夜ふけて 天喜四年皇后宮(四条宮)春秋歌合 五番右雁負 伊勢大輔

※みぬ人の 左兵衛佐定文歌合 不会恋 右持 凡河内躬恒

※みちとせに 亭子院歌合 右負 是則
みちよへてなるてふ桃はことしより花さく春にあひぞしにける
判 としとよむべきことをよといへりとて、まく
拾遺和歌集 みちとせになるてふもものことしより花さく春にあひにけるかな

※さはべの芦の 後拾遺和歌集巻第一 春歌上 大中臣能宣9
たづのすむ沢べの芦の下根とけみぎはもえいづる春はきにけり

※袖の雪 六百番歌合 七番 志賀山越 左勝 藤原定家
袖の雪空ふく風もひとつにて花ににほへる志賀の山越


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