夕くれや 屼並ひたる雲 の 峯 去来
はしめて洛に入て
大阪
雲のみね今のは比叡に 似た物か 之道
秋
秋風や 蓮をちからに花ひとつ 不知讀人
此句東武よりきこゆもし素堂か
かつくりとぬけ初る歯や秋 の風 杉風
芭蕉葉は何になれとや 秋の風 路通
人に似て 猿も手を組 秋の風 珎碩
加賀の全昌寺に宿す
終夜 秋風 きくや 裏 の 山 曽良
江戸
芦原や 鷺の寝ぬ夜を 秋の風 山川
あさ露や 鬱金畠 の秋 の 風 凡兆
はつ露や 猪の臥芝 の起あかり 去来
大 比叡やはこふ野菜の露しけし 野童
三葉ちりて跡は 枯木や 桐の苗 凡兆
文月や 六日も常の夜には 似す 芭蕉
合歓の木の葉こしもいとへ星の影 芭蕉
伊賀少年
七夕やあまりいそかはころふへし 杜若
みやこにも住ましりけり 相撲取 去来
伊賀
朝かほは 鶴眠る間のさかり 哉 風麥
膳所
蕣や ぬかこの蔓 のほとかれす 及肩
笑にも 泣にも 似さる木槿 哉 嵐蘭
手を懸て をらて 過行木槿 哉 杉風
高燈籠ひるは ものうき柱 かな 千邦
はてもなく 瀬のなる音や秋黴雨 史邦
そよ/\や藪 の内より初あらし 且藁
三川
秋風や とても 薄はうこくはす 子尹
迷ひ子 の親のこゝろやすゝき原 羽紅
八瀬おはらに遊吟して柴うりの
文書ける序手に
まねき/\ 柺の 先の薄 かな 凡兆
つくしよりかへりけるにひみと
いふ山にて卯七に別て
君か手 もましる成へし はな薄 去来
ゆふぐれやはげならびたるくものみね 去来(雲の峰:夏) くものみねいまのはひえに似たものか 之道(雲の峰:夏) ※之道 槐本之道。薬種商をいとなみ,大坂では初の松尾芭蕉の門人。元禄7年発病した芭蕉を弟子の榎並舎羅らとともに,その死までみとった。通称は伏見屋久右(左)衛門。別号に東湖,諷竹など。姓は「えのもと」ともよむ。編著に「あめ子」「淡路島」「砂川」。 あきかぜやはすをちからにはなひとつ 不知読人(秋風:秋) ※不知読人 三河岡崎の鶴声の作。巻頭に素堂の名をちら付かせた去来の趣向。後に、荷兮に実作者を暴かれた。 がつくりとぬけそむるはやあきのかぜ 杉風(秋風:秋) ばせうははなにになれとやあきのかぜ 路通(秋風:秋) ひとににてさるもてをくむあきのかぜ 珎碩(秋風:秋) よもすがらあきかぜきくやうらのやま 曽良(秋風:秋) ※奥の細道。全昌寺は石川県加賀市大聖寺の寺。曽良は芭蕉と別れて、全昌寺に泊まり、後に芭蕉も訪れた。 あしはらやさぎのねぬよをあきのかぜ 山川(秋風:秋) あさつゆやうこんばたけのあきのかぜ 凡兆(秋風:秋) はつしもやゐのふすしばのおきあがり 去来(初霜:秋) ※猪の臥芝 歌語の臥猪の床。 おほひえやはこぶやさいのつゆしげし 野童(露:秋) みはちりてあとはかれきやきりのなえ 凡兆(桐散る:秋) ※三葉ちりて 桐一葉で天下の秋を知るのに、あと三葉散ったら枯れ木だと言う俳諧味。 ふみづきやむいかもつねのよにはにず 芭蕉(文月:秋) ※奥の細道。文月の七日は七夕で、その前夜の事。越後直江津での作。 ねむのきのはごしもいとへほしのかげ 芭蕉(星合:秋) たなばたやあまりいそがばころぶべし 杜若(七夕:秋) ※参考 いつしかとまたぐ心をはぎにあげて天の河原をけふやわたらむ(古今集 七月六日七夕の心をよみける 藤原兼輔朝臣) みやこにもすみまじりけりすまうとり 去来(相撲取:秋) あさがほはつるねむるまのさかりかな 風麦(朝顔:秋) あさがほやぬかごのつるのほどかれず 及肩(朝顔:秋) わらふにもなくにもにざるむくげかな 嵐蘭(木槿:秋) てをかけておらですぎゆくむくげかな 杉風(木槿:秋) たかとうろひるはものうきはしらかな 千邦(高灯籠:秋) はてもなくせのなるおとやあきついり 史邦(秋黴雨:秋) そよそよややぶのうちよりはつあらし 旦藁(初嵐:秋) あきかぜやとてもすすきはうごくはず 子尹(薄:秋) まよひごのおやのこころやすすきはら 羽紅(薄:秋) ※親の心 人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまどひぬるかな(後撰集 兼輔朝臣) まねきまねきあふごのさきのすすきかな 凡兆(薄:秋) ※柴うりの文書 大原女の俳文柴売説 ※柺 おうご 荷を担う棒。天秤棒。 きみがてもまじるなるべしはなすすき 去来 ※ひみ 長崎街道の日見峠。同所の芒塚句碑にこの句がある。長崎は去来の生まれ故郷。