野 畠や 鴈 追のけて 摘 若 菜 史邦
はつ 市や 雪に漕 来る 若菜 舟 嵐蘭
宵の 月 西に なつ なのきこゆ也 如行
憶翁之客中
裾折て 菜を つみ しらん 草 枕 嵐蘭
つみ捨て 蹈 付 かたき 若菜 哉 路通
七 種や 跡にうかるゝ 朝から す 其角
我事 と 鯲 の にけし 根芹 哉 丈草
うすらひや わつかに 咲る 芹の花 其角
朧 とは 松 の くろさに月夜 哉 仝
鉢たゝき こぬ 夜となれは 朧 也 去来
加賀
鴬 の 雪 ふみ おとす 垣ほかな 一桐
江戸
うくひすや はや一聲の したりかほ 渓石
鴬や 遠 路 なから 礼 かへ し 其角
うくひすや下駄の歯につくに小田の土 凡兆
伊賀
鴬や 窓 に 灸を すゑ な から 魚日
やふの雪 柳 はかり はすかた 哉 探丸
江戸
此瘤 は さるの 持へき 柳 かな 卜宅
江戸
垣 こしに とらへてはなす 柳 哉 遠水
よこた 川 植處 なき 柳 か な 尚白
伊賀
青柳 の したれや 鯉 の 住 處 一啖
同
雪汁や 蛤 いかす 場 の す み 木白
待中 の 正月 も はやくたり 月 揚水
田家に在て
麦めしに やつるゝ恋か 猫 の 妻 芭蕉
うらやまし おもひ 切 時 猫の恋 越人
うき友に かまれて 猫の空 ながめ 去来
露沾公にて餘寒の當座
春風に ぬきも さためぬ 羽織 哉 亀翁
野の梅 のちりしほ 寒き 二月 哉 尚白
出かはりや 櫃にあまれるこさのたけ 亀翁
出替 や 幼 こゝろに 物 あはれ 嵐雪
骨柴 の かられなからも 木芽 哉 凡兆
白魚や 海苔は 下部 の かひ合せ 其角
尾張
人の 手に とられて後や 桜 海苔 杉峯
春雨に たゝき 出したりつく/\し 元志
のばたけやがんおひのけてつむわかな 史邦(若菜:春) はついちやゆきにこぎくるわかなぶね 嵐蘭(若菜:春) よひのつきにしになづなのきこゆなり 如行(薺:春) ※なづな なづな打の略。七草粥の時、なづなを刻み打ちながら、「唐土の鳥と〜」囃す。 すそをりてなをつみしらんくさまくら 嵐蘭(菜摘:春) つみすててふみつけがたきわかなかな 路通(若菜:春) ななくさやあとにうかるるあさがらす 其角(七種:春) ※七種 なづなに同じ。 わがこととどぢやうのにげしねぜりかな 丈草(根芹:春) うすらひやわづかにさけるせりのはな 其角(芹:春) ※芹の花 芹の花は、夏季で誤認か? おぼろとはまつのくろさにつきよかな 其角(朧:春) はちたたきこぬよとなればおぼろなり 去来(朧:春) 鉢たたき 鉢叩は、空也上人忌の十一月十三日から四十八日間の修行。 うぐひすのゆきふみおとすかきほかな 一桐(鴬:春) うぐひすやはやひとこゑのしたりがほ 渓石(鴬:春) うぐひすやとほみちながられいがへし 其角(鴬:春) ※礼がへし 年賀の挨拶の返礼 うぐひすやげたのはにつくをだのつち 凡兆(鴬:春) うぐひすやまどにやいとをすえながら 魚日(鴬:春) やぶのゆきやなぎばかりはすがたかな 探丸(柳:春) このこぶはさるのもつべきやなぎかな 卜宅(柳:春) かきごしにとらへてはなすやなぎかな 遠水(柳:春) よこたかはうゑどころなきやなぎかな 尚白(柳:春) ※横田川 滋賀県の野洲川の中流域の別名。湖南市三雲駅付近と言われる。 ※植所なき 夫木和歌抄 鴨長明 横田山石部川原の蓬生に秋風さむみ都こひしも あをやぎのしだれやこひのすみどころ 一啖(青柳:春) ゆきじるやはまぐりいかすにはのすみ 木白(雪汁:春) ※雪汁 雪解け水。 まつうちのしやうぐわつもはやくだりづき 揚水(正月:春) むぎめしにやつるるこひかねこのつま 芭蕉(猫の妻:春) うらやましおもひきるときねこのこひ 越人(猫の恋:春) うきともにかまれてねこのそらながめ 去来(猫の恋:春) ※空 参考 古今集 大空は恋しき人のかたみかは物思ふごとに眺めらるらむ はるかぜにぬぎもさだめぬはおりかな 亀翁(春風:春) ののうめのちりしほさむきにぐわつかな 尚白(二月:春) でがはりやひつにあまれるござのたけ 亀翁(出替:春) ※出替 出替奉公。奉公人が一年、半年を務めた交代期。三月五日と九月十日。 でがはりやをさなごころにものあはれ 嵐雪(出替:春) ほねしばのかられながらもこのめかな 凡兆(木の芽:春) しらうをやのりはしもべのかひあはせ 其角(白魚:春) ひとのてにとられてのちやさくらのり 杉峯(桜海苔:春) はるさめにたたきだしたりつくづくし 元志(土筆:春)