在原業平朝臣
つきやあらぬはるや
むかしのはるならぬわが
もと みひ
のみに
して とつは
月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つは元の身にして
伊勢物語四段、古今和歌集巻第十五恋歌五、古今和歌六帖、俊成三十六人歌合
伊勢物語
むかし、ひんがしの五條に、大后の宮おはしましける。西の對に住む人ありけり。それをほいにはあらで、こころざし深かりける人、ゆきとぶらひけるを、むつきの十日ばかりのほどに、ほかにかくれにけり。ありどころは聞けど、人のいき通ふべき所にもあらざりければ、なほうしと思ひつゝなむありける。
またの年の睦月に梅の花ざかりに、去年を戀ひていきて、立ちて見、ゐて見、見れど、去年に似るべくもあらず。うち泣て、あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせりて、去年を思ひいでてよめる。
月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身は一つもとの身にして
とよみて、夜のほの/"\と明くるに、泣く泣くかへりにけり。
平成27年4月26日貮