紅葉狩 五番目物 観世信光
山中の紅葉狩の上臈たちに平維茂が呼ばれ、酒、舞で饗なし、夜の嵐に消える。酔って眠った維茂の夢の中に八幡八幡宮の武内の神が出てきて、上臈達は戸隠山の鬼であると告げ、神剣を与える。
目覚めた維茂は、夢想の剣で現れた鬼神と戦い、これを退治する。
前ジテ:紅葉狩女 後ジテ:悪鬼 ワキ:平維茂 ワキヅレ:従者 ワキヅレ:勢子 オモアイ:供女 アドアイ:武内神
ワキ 面白や比は長月廿日あまり、四方の梢も色々に、錦を彩る夕時雨、濡れてや鹿のひとり鳴く、聲をしるべの狩場の末、實面白き氣色かな。
ワキツレ 明ぬとて、野邊より山に入鹿の、跡吹き送る風の音に、駒の足並勇むなり。
同 丈夫が、彌猛心の梓弓、彌猛心の梓弓、入野の薄露分て、行ゑも遠き山かげの、鹿垣の道の険しきに。落ち來る鹿の聲すなり、風の行ゑも心せよ、風の行ゑも心せよ。
※夕時雨、濡れ手や鹿のひとり鳴く
第五 秋歌下 437
和歌所にてをのこども歌よみ侍りしに夕鹿といふことを 藤原家隆朝臣
下紅葉かつ散る山の夕時雨濡れてやひとり鹿の鳴くらむ
※明ぬとて、野邊より山に入る鹿の、跡吹き送る
第四 秋歌上 351
和歌所歌合に朝草花といふことを 藤原通光
明けぬとて野邊より山に入る鹿のあと吹きおくる萩の下風
同 かくて時刻も移り行く、雲に嵐の聲すなり、散るか真拆の葛城の、神の契りの夜かけて、月の盃さす袖も、雪を廻らす袂かな。
同 堪へず紅葉。
※移り行く、雲に嵐の聲すなり、散るか真拆の葛城の
第六 冬歌 561
春日社歌合に落葉といふことをよみ奉りし 藤原雅經
移りゆく雲にあらしの聲すなり散るかまさ木のかづらきの山