やすきさへ霞にくもらぬに、小松がはらは春のあ
わ雪がふると也。冬はかきたれてふりしが、
春のしるしにあは雪がふると也。ねばの時
はひはらのくもらねば、小松原にもいまだ雪
ふるぞとなり。
一 よみ人しらず
一 今更に雪ふらめやもかげろふのもゆる春日と
成にし物を
古抄云。雪ふらめやもゆきやふれうべきととがめたる
詞なり。かげろふ両説あり。とむばう、又糸遊
など云てみれば空にちら/\とみゆるを云也。
陽煙と云なり。此哥はみゆるとあれば、陽煙
の事也。さてももゆる春日と成にしものと
いまさらに、雪はふらじとおもへば、雪のふるよと
よめるなり。
増抄云。今更にとは又あらたまりてと云詞也。
春になりてふるは改てふる義也。雪ふらめや
もと、とがめたる事也。ふらぬ筈の春にて有に
となり。いかでふらぬはづぞなれば、もゆる春日と
なりにしものをとなり。雪のふるをいやにて、とがめ
たるにあらず。もはや雪をみまじきかと
のこりおほかりしに、ふりてうれしやとの
義也。
かげろふは、もゆると云かけんためなり。日を
火にとりなしたり。上にかくいひて下にて
ことわる一体なり。
頭注
日 説文云。日者
實也。大陽之精
君象也。
纂要云。春 曰
遅日。
易通統圖云。
日行東方青
道曰。東陸。
かげろふ 野馬陽煙
蜻蛉遊糸。
これらのこといへり。
※説文 説文解字。多少異同がある。 ※纂要 不明。 ※易通統圖 易経の緯書の一つ。