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Channel: 新古今和歌集の部屋
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美濃の家づと 三の巻 哀傷歌2

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聞ゆ。さて露の風にさわぐさま、涙のこぼるゝさま、とも

に玉のゆらぐに似たれば、其よしをもかねてよみ

たまへるにや。ふるき抄、露もなみだもとはあれ

ども、たゞなみだのことにて、露のごとくふるといふ

ことなりといへるは、かなはず。

父秀家身まかりての秋寄風懐旧

                 秀能

露をだに今はかたみのふぢ衣あだにも袖をふくあらし哉

めでたし。詞めでたし。今は露をだにかたみと

おもふ藤衣の袖なるを、あだに吹ちらす嵐哉也。

今はといふに心をつくべし。つねには袖の露けきをば、

いとふわざなるに、今はなり。

母の思ひに侍ける秋法輪寺にこもりて侍けるに嵐の

いたく吹ければ     俊成卿

うき世には今はあらしの山かぜにこれやなれゆくはじめ成らむ

めでたし。詞めでたし。法輪寺は、嵐山に有。

歌の意、うき世にはあらじ、今はのがれむと、思ひたつころ

なれば、此嵐や、程なく此山にかくれ住て、嵐になれ

ゆくべき、はじめならんとなり。

定家ノ朝臣の母みまかりて後秋のころ墓所ちかき


堂にとまりてよみ侍ける

まれにくるよはもかなしき松風を絶ずや苔の下に聞らむ

めでたし。まれに來てきくだにかなしき、この

松風の音を、苔の下にて、夜ごとに絶ずや聞らむと也。

十月ばかり水無瀬におはしましゝ比、前ノ大僧正

慈圓のもとへ、ぬれて時雨のなど、のたまひつかはし

て、次の年の神無月、無常の御うたあまたよみ

玉ひて、つかはしける中に 太上天皇御製

思い出るをりたく柴の夕けぶりむせぶもうれし忘がたみに

おもひ出るをりふしといひかけ玉へるなり。忘れがたみ

はけぶりとなりしかたみ也。

雨中ノ無常

なき人のかたみの雲やしぐるらむ夕の雨に色は見えねど

朝雲暮雨の意なり。又初二句は、けぶりとなりしなごり

の雲の意をもかね玉へり。ふるき抄に、我ちぎりたる

雨ならば、色も有べきに、ちぎらねば、色もなきなりと

いへるは、ひがことなり。結句は、それとしるき色は

見えねどなり。

権中納言通家ノ卿の母かくれ侍にける秋摂政の許に

つかはしける       俊成卿


かぎりなきおもひのほどの夢のうちはおどろかさじと歎きこし哉

通家卿は、光明峯寺殿也。ほどのといひ、うちはといへる、

重なりてみぐるし。結句もくちをし。

かへし           摂政

みし夢にやがてまぎれぬ我が身こそとはるゝけふも先悲しけれ

めでたし。若紫ノ巻√見てもまたあふ夜まれなる

夢のうちにやがてまぎるゝわが身ともがな。みし夢

とは、人の夢のごとはかなくなりにしをいふ。やがてはその

まゝになり。まぎるゝは、その夢とゝもにはかなく

なるをいふ。

 

朝雲暮雨
《楚 の懐王が夢の中で契りを交わした神女が、朝には雲に、夕暮れには雨になると言ったという、宋玉「高唐賦」などにみえる故事から》男女の堅い契り。→巫山 (ふざん) の雲雨

 

※若紫ノ巻
源氏物語若紫
藤壺の宮、悩みたまふことありて、 まかでたまへり。上の、おぼつかながり、嘆ききこえたまふ御気色も、 いといとほしう見たてまつりながら、 かかる折だにと、心もあくがれ惑ひて、 何処にも何処にも、まうでたまはず、内裏にても里にても、昼は つれづれと眺め暮らして、暮るれば、 王命婦を責め歩きたまふ。 いかがたばかりけむ、いとわりなくて見たてまつるほどさへ、現とはおぼえぬぞ、 わびしきや。 宮も、あさましかりしを思し出づるだに、世とともの御もの思ひなるを、 さてだにやみなむと 深う思したるに、 いと憂くて、 いみじき御気色なるものから、なつかしうらうたげに、 さりとてうちとけず、心深う恥づかしげなる御もてなしなどの、 なほ人に似させたまはぬを、「 などか、 なのめなることだにうち交じりたまはざりけむ」と、 つらうさへぞ思さるる。何ごとをかは聞こえ尽くしたまはむ。くらぶの山に宿りも取らまほしげなれど、 あやにくなる 短夜にて、 あさましう、なかなかなり。
  見てもまた逢ふ夜まれなる夢のうちにやがて紛るる我が身ともがな
と、 むせかへりたまふさまも、 さすがにいみじければ、

 

嵐山 法輪寺


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