一 返し 大貳三位 賢子
左衛門ノ権ノ佐、山城ノ守藤ノ宣孝女。母ハ紫式部。
大宰大貳成章ノ卿ノ為妻、仍テ号大貳六首入
一 春毎に心をしむる花のえに誰がなをざりの袖のかふれ
つる
増抄云。定頼の哥に、大かたにこぬ人によそへ
てとあるによりて、大貳はわがことにはとり
なさず、誰人をかまちて、その人によそへ
てみ給ふぞと也。かへりてうらみたる也。
春毎にわがゆきて心をしむる花にて有
しを、誰人かなをざりに袖をふれて
梅によそへらるらんとよみし也。此哥少
きゝにくゝある返哥となり。つると云
詞に心こもりたり。われはゆかぬほどに、よそへ
らるべき事はなし。誰袖触れてよそへらるゝ
ぞとなり。
頭注
さごろもの作者也。
さごろもといふもの
源氏につぎてかけり。
相伝あることゝなり
とぞ。
心をしむるとはそむる
たり。染着する也。
或説に卜字なり。
領するこゝろなり。
あすからはわかなつま
むとしめしのになど
の歌也。心に領じ
て置たるに誰が
袖をふれつるぞ
となり。
※あすからは
新古今和歌集春歌上
題しらず
山部赤人
明日からは若菜摘まむとしめし野に昨日も今日も雪は降りつつ
よみ:あすからはわかなつまむとしめしのにきのうもきょうもゆきはふりつつ 有定隆雅 隠
意味:(春になったので)明日になったら若菜を摘みに行こうと思うのですが、立入禁止のしめ縄をしている野に昨日も今日も雪が降っていて本当の春はまだ遠い。
備考:万葉集 第八巻 1427 山部宿禰赤人 従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日毛 雪波布利管。古今和歌六帖。和漢朗詠集。