どもいろをも香をともにしる人はとひこねば、ひとい
りながめてちりぬと也。さてもおしきことかな
と、心をあましたる花也。しるばかり成とは、
古
君ならで誰にかみせん梅花色をもかをも
しる人ぞしる
この哥の心をふまへてよめる成べし。
一 文集嘉陵ノ春ノ夜ノ詩ニ不明不暗朧々月
といへることをよみ侍りける 大江千里
兵部卿大丞參議 參議音人男 三首入
文集は白楽天が文集なり。嘉陵所なり。詩は
春夜のかすみたる景氣なり。
一 てりもせずくもりもはてぬ春のよの朧月よにしくものぞなき
増抄ニ云ク春夜の景氣なり。秋の月のごとく
てりもせず、冬の空のしぐれのごとくくもりもはてず、
らう/\として、優美なる躰也。しくものぞなき
とは、くらべてうへするものなしとなり。花紅葉
雪もゑまさらぬとなり。
※兵部卿大丞參議 大江千里は、兵部大丞も任じられたが、最終官位は式部権大輔。参議にはなっていない。