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美濃の家づと 三の巻 羇旅歌5

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羈中ノ夕           長明

枕とていづれの草にちぎるらむゆくをかぎりの野べの夕暮

三の句、ちぎらましとしぞいふべけれ。らむにては、ふる郷人

などの、旅なる人のうへを、思ひやりてよめるやうにて、かな

ひがたし。 四の句も、√ゆきどまるをぞやどとさだむる。といへる

意とは聞ゆれども、行くをかぎりとのみにては、

ことたらず。

東のかたへまかりける道にてよみ侍ける

                 民部卿成範

道のべの草の青葉に駒とめて猶ふるさとをかへり見る哉

めでたし。二三の句詞めでたし。  此人は、信西が子

なりければ、平治おみだれに、老たる母いときなき子を

とゞめおきて、東の国に流されて、くだらるゝ時の哥也。

  後拾遺に増基法師が、√都のみ歸りみられて東路を

駒のこゝろにまかせてぞゆくとよめるは、駒のあへし

らへなきを、これは草の青葉にといへるなど、めで

たし。

旅のうた            秀能

さらぬだに秋の旅ねはかなしきに松に吹なり床の山風

四の句、山風の松にふくにつきて、故郷人の我をまつ

らむと、おもひやらるゝ意なるべし。

摂政ノ家ノ哥合に秋ノ旅   定家朝臣

忘れなむまつとなつげそ中/\にいなばの山の峯の秋風

本歌√立わかれいなばの山の云々。  初句は、故郷のことを

おもへばくるしきほどに、いかでわすればやとおもふなり。

然るを故郷人の待ときかば、わすれがたかるべきほどに、

中々にさな告そとなり。 中々には、なまじひになり。

二の句の上へうつして心得べし。故郷人のまつといふ

たよりは、うれしかるべきことなれども忘れんと思ふには、

妨となれば、なまじひにまつとな告そと也。此哥、秋ノ

旅といふ題なるに、秋風といへるのみにて、秋の意なしいかゞ。

百首ノ哥奉りし時旅の哥   家隆朝臣

契らねど一夜は過ぬ清見がた波にわかるゝあかつきの雲

清見がたに旅ねして、暁に立わかるゝ時に、浪のうへに

雲もわかるゝを見て、思へるやう、あの雲と契りはせざり

しかど、一夜は此浦に諸共にあかしぬることよとなり。

但し二の句、一夜はもろともにあかしぬといふことを、過ぬ7といへるは、たしかならず。されど、ちぎらねどゝいへる

にて、然聞えたり。

千五百番ノ歌合に

故郷にたのめしひとも末の松まつらむ袖に波やこすらん

めでたし。  下句は、我をまちわびて、袖に涙

のながるらむといふ意なり。 結句、心やかはりぬらん

といふやうに聞ゆれども、其意はあらず。末の松とおける

は、待らむと詞をかさねて、浪こすといはむ料のみに

て、波こすは、たゞ涙のながるゝをいふなり。浮舟巻に、√浪こゆる

ころともしらで末の松まつらんとのみ思ひける哉。

三四の句は、此哥によれゝど、意はことなり。  二の句、人も

といへるも°もじにて、我涙を流すことしられたり。

 

 

※√ゆきどまるをぞやどとさだむる
古今集雑歌下
 題しらず         よみ人しらず
世中はいづれかさしてわかならむ行きどまるをぞ宿やと定むる

※後拾遺に増基法師が、√都のみ歸りみられて~
後拾遺集羈旅歌
              増基法師
都のみかへりみられて東路を駒のこころにまかせてぞゆく

※√立わかれいなばの山の
古今集離別歌
 題しらず
              行平
立ちわかれいなはの山の峰におふる松としきかは今かへりこむ

※浮舟巻に、√浪こゆるころともしらで~
源氏物語浮舟
              薫大将
波越ゆる比とも知らず末の松待つらむものと思ひけるかな


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