和祠部王員外雪後早朝
卽事 岑参
長安雪後似春歸積素凝華
連曙暉色借玉珂迷曉騎光
添銀燭晃朝衣西山落月臨天
仗北闕晴雲捧禁闈聞道仙
郎歌白雪由來此曲和人稀
東江雲士書
○ちやうあんせつごはるのかへるににたり。そをつみくわをこらしてしよきつらなる。いろはぎよくかに かりてきやうきまよい、ひかりはぎんしよくにそふててふいほがみかなり。せいざんのらくげつてん ぢやうにのぞみ、ほくけつのせいうんきんいをさゝぐ。きくならくせんらうはくせつをうたふと。ゆ らいこのきよくわするひとまれなり。 長安の雪後のやうすをいひ出して雪の降たけしきをみれば春のはなのごとくであるまつ白な 雪の光があけ方の日のひかりにつれていよ/\ひかる雪の白いと馬のかざりの玉珂の白いが一ッに 成てみわけられぬ雪のひかりとの轡の光が一ッに成て手前の衣に移つてきら/\光りわたり 西山がまつ白ふ落月のごとく天丈にのぞみかゝるをみれば雪の白いのである禁裏の御殿が 高く建てある下を雪がとりまわしてあるやうすやねの上ばかり雪がちよつほりとあるが 下からさゝげ上たやうにみゆる。王員外が陽春白雪をうたひ出されがすぐれてよいについて中 /\和する者はない。此方などは及びもない事じゃ。和祠部王員外 祠部王員外の
雪後早朝即事 「雪後早朝即事」に和す
岑参
長安雪後似春歸 長安雪後、春帰れるに似たり。
積素凝華連曙暉 積素凝華、曙暉(しょき)に連なる。
色借玉珂迷曉騎 色は玉珂に借りて曉騎を迷わしめ、
光添銀燭晃朝衣 光は銀燭に添うて朝衣に晃(かがや)く。
西山落月臨天仗 西山の落月、天仗に臨み、
北闕晴雲捧禁闈 北闕の晴雲、禁闈を捧ぐ。
聞道仙郎歌白雪 聞く道(な)らく仙郎、白雪を歌えりと。
由來此曲和人稀 由来此の曲、和する人稀なり。
意訳 長安の雪が降った後は、春が帰って来たようだ。 雪が積もって、雪の結晶が朝日に輝いている。 その色は、馬のくつわに飾った玉から借りてきたかとと、暁の道を行く馬を牽く者を迷わし、 その光りは宮殿の銀燭に替って、正装の朝衣を明るく映えてさせている。 今、西山に沈もうとしている月は、儀仗の上にかかり、 北の宮殿に晴れ行く雲は、帝の御殿に捧げる物のように流れる。 聞くところによると、この王員外郎殿は、陽春白雪を歌われるそうな。 昔からこの曲には、唱和できる人は少なく、今回の玉作も、凡人には唱和できかねる程の調の高いものだ。 ※祠部王員外 祠部は天文・時間・宗教などを管掌する役所で、員外はそこの次長。王という人物については不明。 ※即事 即興的に映じた詩※素 白の意味。雪をさす。
※凝華 凝結した花。雪の結晶
※曙暉 朝日の光
※玉珂 馬のくつわに付ける飾り
※朝衣 朝廷に出仕する時の正装
※天仗 天子を護衛する儀仗
※北闕 北側にある宮殿
※禁闈 闈は戸口。天子の宮殿をさす。
※仙郎 員外郎や郎中をさし、王員外の事
※白雪 戦国時代の楚で歌われた陽春白雪をさし、格調の高い歌という意
※東江雲士 沢田 東江? (さわだ とうこう、享保十七年(1732年) - 寛政八年(1796年))は、江戸時代の書道家・漢学者・儒学者。洒落本の戯作者。