頭注
いかさま 細いか/\しき也。花同たけき心也云々。孟威撹。河辛。三威勢也。
いきをひを見する也。
うきふねのさめ也
ひきぬがせんとすれば、うつぶしてこゑた
法師の詞。細何にもあれ也
つばかりなく。なにゝまれかくあやしき
ことなべて世にあらじとて、みはてむと
法師の詞
思に、雨いたくふりぬべし。かくてをいたらば、
三垣の下なり。軒の下の心也
しにはてはべりぬべし。かきのもとにこそいだ
孟僧都の詞
さめといふ。僧都゙まことの人のかたちなり。
そのいのちたえぬを、みる/\すてんことは
いみじきことなり。池にをよぐいを、山にな
く鹿をだに、人にとらへられてしなんと
するをみつゝたすけざらんはいとかなしかる
べし。人の命久しかるまじき物なれど、のこ
頭注
雨いたくふりぬべし。
細此雨則浮舟の入水
の翌日也。
池におよぐいを山にな
くしかをだに
孟まして人をやと也。
りの命一二日をもおしまずはあるべから 三領也 ず。鬼にも神にもりやうぜられ、人にお はれ人にはかりごたれても、これよこざ まのしにをすべき物にこそあめれ。仏の かならずすくひ給べきゝはなり。猶心みに しばしゆをのませなどして、たすけ心み ん。つゐにしぬべくはいふかぎりにあらず。 との給て、この大とこしていだきいれさせ 孟退々也。無用と弟子共の詞也 給を、でしども、だい/"\しきわざかな。いたう 三僧都の母の事也 わづらひ給人の御あたりに、よからぬ物を とりいれて、けがらひかならず出きなん 又一人弟子の詞也 とすと、もどくもあり。又物變化゙にもあれ、め 頭注 人にをはれ 師普門品に 或被悪人遂といへり。 是も横死なり。薬師經 に九ツの横死あり。 人にはかりごたれて 孟人にたばかられたる心 也。師人にたばかりこ とせられてと也。 つひにしぬべくはいふべかぎ りにあらず。 三自業自得果の理 なれば也。 この大とこして 抄前に物おぢせぬと いへる人なるべし。
花みるみる也 にみす/\いける人を、かゝる雨にうちうし なはせんは、いみじきことなれば、など心々゙ にいふ。下゙すなどは、いとさはがしく、物をうた ていひなす物なれば、人さはがしからぬか くれのかたになんふせたりける。御くるま よせており給ほど、いたうくるしがりと てのゝしる。すこししづまりて僧都有つる 法師詞 人はいかゞなりぬるとゝひ給ふ。なよ/\として ものもいはず。いきもし侍らず。なにか物に けどられにける人にこそといふを、いもう 孟僧都詞也 との尼君゙聞て、何事゙ぞとゝふ。しか/"\のこと むそぢ をなん、六十にあまるとし、めづらかなる物 頭注 御くるまよせており給ふ 細尼君たちの來り たる也。孟尼公是まで はいまだ宇治院にうつ り侍らぬ也。 引き脱がせんとすれば、俯して声立つばかり泣く。 「何にまれ、かくあやしき事なべて世にあらじ」とて、見果てむと思ふに、 「雨いたく降りぬべし。かくて置いたらば、死に果て侍りぬべし。垣の下に こそ出ださめ」と言ふ。僧都、 「真の人の形なり。その命絶えぬを、見る見る捨てん事はいみじき事なり。 池に泳ぐ魚(いを)、山に鳴く鹿をだに、人に捕らへられて死なんとするを 見つつ助けざらんは、いと悲しかるべし。人の命久しかるまじき物なれど、 残りの命、一、二日をも惜しまずはあるべからず。鬼にも神にも領ぜられ、 人に遂(お)はれ、人に謀りごたれても、これ横樣の死にをすべき物にこそ あンめれ。仏の必ず救ひ給ふべき際なり。猶、試に暫し湯を飲ませなどして、 助け試みん。終に死ぬべくは、言ふ限りにあらず」と宣ひて、この大徳して 抱き入れさせ給ふを、弟子ども、 「だい/"\しきわざかな。いたう患ひ給ふ人の御辺りに、良からぬ物を取り 入れて、穢らひ必ず出できなんとす」と、もどくも有り。又、 「物の変化にもあれ、目に見す見す生ける人を、かかる雨に打失なはせんは、 いみじき事なれば」など、心々に言ふ。下衆などは、いと騒がしく、物をう たて言ひなす物なれば、人騒がしからぬ隠れの方に、なん臥せたりける。 御車寄せて降り給ふほど、いたう苦しがりとて罵る。少し静まりて、僧都、 「有つる人は、如何なりぬる」と問ひ給ふ。 「なよなよとして、物も言はず。生きもし侍らず。何か物にけどられにける 人にこそ」と言ふを、妹の尼君聞て、 「何事ぞ」と問ふ。 「しかじかの事をなん、六十に余る年、珍らかなる物 ※普門品に 妙法蓮華経 観音菩薩普門品 或被悪人逐 堕落金剛山 念彼観音力 不能損一毛
※薬師經 薬師瑠璃光如来本願功徳経 黄熱等病。或被えん魅蟲毒所中。或復短命。或時横死。欲令是等。病苦消除。所求願満。など。 略語 ※奥入 源氏奥入 藤原伊行 ※孟 孟律抄 九条禅閣植通 ※河 河海抄 四辻左大臣善成 ※細 細流抄 西三条右大臣公条 ※花 花鳥余情 一条禅閣兼良 ※哢 哢花抄 牡丹花肖柏 ※和 和秘抄 一条禅閣兼良 ※明 明星抄 西三条右大臣公条 ※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説 ※師 師(簑形如庵)の説 ※拾 源注拾遺
りの命一二日をもおしまずはあるべから 三領也 ず。鬼にも神にもりやうぜられ、人にお はれ人にはかりごたれても、これよこざ まのしにをすべき物にこそあめれ。仏の かならずすくひ給べきゝはなり。猶心みに しばしゆをのませなどして、たすけ心み ん。つゐにしぬべくはいふかぎりにあらず。 との給て、この大とこしていだきいれさせ 孟退々也。無用と弟子共の詞也 給を、でしども、だい/"\しきわざかな。いたう 三僧都の母の事也 わづらひ給人の御あたりに、よからぬ物を とりいれて、けがらひかならず出きなん 又一人弟子の詞也 とすと、もどくもあり。又物變化゙にもあれ、め 頭注 人にをはれ 師普門品に 或被悪人遂といへり。 是も横死なり。薬師經 に九ツの横死あり。 人にはかりごたれて 孟人にたばかられたる心 也。師人にたばかりこ とせられてと也。 つひにしぬべくはいふべかぎ りにあらず。 三自業自得果の理 なれば也。 この大とこして 抄前に物おぢせぬと いへる人なるべし。
花みるみる也 にみす/\いける人を、かゝる雨にうちうし なはせんは、いみじきことなれば、など心々゙ にいふ。下゙すなどは、いとさはがしく、物をうた ていひなす物なれば、人さはがしからぬか くれのかたになんふせたりける。御くるま よせており給ほど、いたうくるしがりと てのゝしる。すこししづまりて僧都有つる 法師詞 人はいかゞなりぬるとゝひ給ふ。なよ/\として ものもいはず。いきもし侍らず。なにか物に けどられにける人にこそといふを、いもう 孟僧都詞也 との尼君゙聞て、何事゙ぞとゝふ。しか/"\のこと むそぢ をなん、六十にあまるとし、めづらかなる物 頭注 御くるまよせており給ふ 細尼君たちの來り たる也。孟尼公是まで はいまだ宇治院にうつ り侍らぬ也。 引き脱がせんとすれば、俯して声立つばかり泣く。 「何にまれ、かくあやしき事なべて世にあらじ」とて、見果てむと思ふに、 「雨いたく降りぬべし。かくて置いたらば、死に果て侍りぬべし。垣の下に こそ出ださめ」と言ふ。僧都、 「真の人の形なり。その命絶えぬを、見る見る捨てん事はいみじき事なり。 池に泳ぐ魚(いを)、山に鳴く鹿をだに、人に捕らへられて死なんとするを 見つつ助けざらんは、いと悲しかるべし。人の命久しかるまじき物なれど、 残りの命、一、二日をも惜しまずはあるべからず。鬼にも神にも領ぜられ、 人に遂(お)はれ、人に謀りごたれても、これ横樣の死にをすべき物にこそ あンめれ。仏の必ず救ひ給ふべき際なり。猶、試に暫し湯を飲ませなどして、 助け試みん。終に死ぬべくは、言ふ限りにあらず」と宣ひて、この大徳して 抱き入れさせ給ふを、弟子ども、 「だい/"\しきわざかな。いたう患ひ給ふ人の御辺りに、良からぬ物を取り 入れて、穢らひ必ず出できなんとす」と、もどくも有り。又、 「物の変化にもあれ、目に見す見す生ける人を、かかる雨に打失なはせんは、 いみじき事なれば」など、心々に言ふ。下衆などは、いと騒がしく、物をう たて言ひなす物なれば、人騒がしからぬ隠れの方に、なん臥せたりける。 御車寄せて降り給ふほど、いたう苦しがりとて罵る。少し静まりて、僧都、 「有つる人は、如何なりぬる」と問ひ給ふ。 「なよなよとして、物も言はず。生きもし侍らず。何か物にけどられにける 人にこそ」と言ふを、妹の尼君聞て、 「何事ぞ」と問ふ。 「しかじかの事をなん、六十に余る年、珍らかなる物 ※普門品に 妙法蓮華経 観音菩薩普門品 或被悪人逐 堕落金剛山 念彼観音力 不能損一毛
※薬師經 薬師瑠璃光如来本願功徳経 黄熱等病。或被えん魅蟲毒所中。或復短命。或時横死。欲令是等。病苦消除。所求願満。など。 略語 ※奥入 源氏奥入 藤原伊行 ※孟 孟律抄 九条禅閣植通 ※河 河海抄 四辻左大臣善成 ※細 細流抄 西三条右大臣公条 ※花 花鳥余情 一条禅閣兼良 ※哢 哢花抄 牡丹花肖柏 ※和 和秘抄 一条禅閣兼良 ※明 明星抄 西三条右大臣公条 ※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説 ※師 師(簑形如庵)の説 ※拾 源注拾遺