伊勢物語第八十二段
(続き)
野よりいできたり。このさけをのみてむと
てよき所をもとめゆくにあまの河といふと
ころにいたりぬ。みこにむまのかみおほみ
きまゐる。みこののたまひける「かた野を
かりてあまの河のほとりにいたる」を題に
てうたよみてさかづきはさせとのたまうけ
ればかのむまのかみよみてたてまつりける。
かりくらしたなばたつめにやどからむ
あまのかはらに我はきにけり
みこうたをかへす/"\ずんじたまうて返
しえしたまはず。きのありつね御ともにつ
かうまつれり。それが返し
ひととせにひとたびきます君まてば
やどかす人もあらじとぞ思ふ
かへりて宮にいらせ給ひぬ。夜ふくるま
でさけのみ物がたりしてあるじのみこゑひ
ていりたまひなむとす。十一日の月もかく
れなむとすれば、かのむまのかみのよめる。
あかなくにまだきも月のかくるゝか
山の端にげていれずもあらなん
写真 大阪府枚方市、交野市