張 良
四・五番目物 霊験物 観世信光作
漢の高祖の臣張良が夢の中で、下ひの土橋で行き会った馬上の老人が沓を落とし、取って履かせよと命じられ、そのとおりにすると老人は五日後に兵法の大事を教えると告げ夢が覚めた。
五日後に行ってみると遅参を責められ、更に五日後に来いと命じて消えうせた。張良は五日後夜明け前に到着して老人を待つと黄石公と名乗り、再度心を試し沓を川へ落とす。張良は川に飛び込むが大蛇が現れ、剣を抜いて立ち向かうと恐れて、沓を差し出す。黄石公は喜び兵法の秘書を授ける。大蛇は観音菩薩の再誕で、張良の守護神になると告げて雲の中へ消え、黄石公は高山に登り石となる。
ワキ 瑶臺霜滿てり、一聲の玄鶴空に唳き、巴狭秋深し、五夜の哀猿月に叫ぶ、物すさましき山路かな。
同 有明の、月も隈なき深更に、月も隈なき深更に、山の峡より見渡せば、所は下ひの河波に、渡せる橋に置く霜の、白きを見れば今朝はまだ、渡し人の跡もなし、嬉しや今はゝや、念ふ願ひも滿つ潮の、曉かけて遙に、夜馬に鞭打つ人影の、駒を駛むる氣色あり。
※渡せる橋に置く霜の、白きを見れば
巻第六 冬歌 620 中納言家持
題知らず
鵲のわたせる橋に置く霜のしろきを見れば夜ぞ更けにける