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古今著聞集 治承四年大辻風の事

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古今著聞集 巻第十七 恠異第廿六

治承四年四月大辻風の事

同四年四月二十九日未刻ばかりに、辻風ふきたりけり。

九條のかたよりおこりけるが、京中の家、或はまろび或は柱ばかり殘れる。死ぬるもの其數をしらず。

蔀遣戸さらぬ雑佛、雲の中に入りて、風に随て飛けり。

或所には雨ふり、或所には雷なり。九條坊門東洞院邊には雪も降りたりけり。

其比かゝる風たび/\ふきけれども、kのたびは第一にをびたゝしかりけり。

たびごとに、乾の方より巽へぞ吹きける。

おそろしき事いふばかりなかりけり。

方丈記 前田家本

又治承四年卯月の比、中御門京極の程より、大きなる辻風起こりて、六条辺りまで、厳めしく吹く事侍き。

三四丁を掛けて吹きあくる間に、その中に籠もれる家ども、大きなるも小さきも一つとして破れざるは無し。

さながら平に倒れたるもあり。

桁柱許り残れるもあり。門の上を吹き払ひて隣と一つになせり。

況や家の内の資財、数を尽くして空にあり。

檜皮、葺板の類は、冬の木の葉の風に乱るゝが如し。

塵を煙の如く吹き立てたれば、全て目も見えず。夥しく鳴り響む音に物言ふ声も聞こえず。彼の地獄の業の風なりとも、かばかりにぞとぞ覚ゆる。

家の損亡せるのみに非ず。是を取り繕ふ間に身を損なひ片輪付ける人、数も知らず。

この風、未の方に移り行きて多くの人の嘆きをなせり。

辻風は、常に吹くものなれど、斯かる事やある。

只事に非ず。

然るべき者の諭しかとぞ疑ひ侍し。


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