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Channel: 新古今和歌集の部屋
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医心方による食 蝙ちゃく

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医心方とは、鍼博士丹波康頼が編纂し、永観二年(984年)朝廷に献上された日本現存最古の医学書である。
その巻第三十は「食養」篇となっており、「医食同源」を成すものとして編纂されたと考えられる。
その中には、「古代の名称が現代の何をさしているのか分からないものや、現代と同じ名前でも同定できないものもある。」(槇佐知子氏)との事である。
そこで、不明とされた生物を探ってみる事とする。

巻第三十「食養」
五肉
蝙※ちゃく
或ハ云フ
補中シ煩熱ヲ去ル。状大蚯[ミミズ]ノ如シ。海邊池泥中ニ生ズ。大※かいニ甚似タル也。湖ニ往キ人其ノ穴ヲ視テ後之ヲ掘リテ取ル。蘆[アシノ]刀ヲ以テ之ヲ挫リ其ノ腹中ノ土沙ヲ去リ豉鹽醤※韭[アエモノニシ]食美。
          和名委

※虫偏に若 シャク
※虫偏に亥 カイ
※門構に韭 辞書に無し。

和名が「委(イ)」となっている事から、イガイ科のイガイ(胎貝 Mytilus coruscus)が考えられる。しかし、イガイは二枚貝でミミズには似ても似つかない事から除外される。

有明海の潟の泥の中に生息するニオガイ科のウミタケ(海茸 Barnea dilatata)は、水管が発達しており、貝殻の3~4倍の長さを持ち、茶褐色で大きなミミズのイメージで、蝙ちゃくの表記と一致する。
同じく水管を発達させたもので、寿司屋のネタとなっているバカガイ科のミルクイ(海松食 Tresus keenae)も浅瀬の砂泥底に、深い穴を掘って棲んでいる。
日本においては、これも漁獲量が減少し、高級食材となって韓国、中国からの輸入品やナミガイ類で代替されている。
両種は、海水や汽水域に棲息しており、淡水の湖や池では無い。中国の産地は不明だが、海水・淡水が入り交じる汽水湖の泥中であったなら大いに可能性が有る。

と言う事で「蝙ちゃくはウミタケの古名である」と言う説を提唱したい。

参考
医心方 丹波康頼撰、槇佐知子全訳精解 筑摩書房
ぼうずコンニャク市場魚貝図鑑
写真:今熊野観音寺医聖堂と医心方碑

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