歌はたヾ同ことばなれども、つヾけがらいひがらにてよくもあしくも聞ゆるなり。彼の友則が歌に
友まどはせる千鳥なくなり
といへる優にきこゆるを同じ古今の戀の歌の中に
戀しきに詫びて玉しゐまどひなば
といひ、又
身のまどふだに知られざるらん
といへるは、只同ことばなれどおびたヾしく聞ゆ。是はみなつヾけがら也。されば、古哥にたしかにしか/\ありなど證をいだす事は、樣によるべし。其哥にとりて善悪あるべき故也。曾禰好忠が哥に、
詞第七 はりまなるしかまにそむるあながちに人を戀しと思ふ比哉
あながちにと云ふ詞、打まかせて哥に讀べしとも覺えぬことぞかし。しかれども、しかまにそむるとつヾきてわざともえんにやさしく聞ゆる也。古今哥に、
古今第一 春霞たてるやいづこみよし野の吉野の山に雪は降りつヽ
是はいとめでたき哥なり。中にもたてるやいづこといへることば勝れてゆふなるを或人の社頭の菊といふ題をよbみ侍りしに、
神垣にたてるや菊の枝たわにたが手向たる花のしらゆふ
同じくたてるやとよみたれど、是はわざとも詞きかず手づヽげに侍り。
※友まどはせる
夕されば佐保の川原の川霧に友まどはせる千鳥鳴くなり 拾遺集 冬 紀友則
※戀しきに詫びて
戀しきに詫びて魂まどひなばむなしきからの何や残らん 古今集恋歌二 よみ人知らず
※身のまどふだに
人思ふ心や我にあらねばや身のまどふだに知られざるらん 古今集恋歌一 よみ人知らず
※はりまなる
播磨なる飾磨に染むるあながちに人を戀しと思うふころかな 詞花集恋歌上 曾禰好忠
※春霞
古今集春歌上 よみ人知らず
※神垣に
出典不明