仙洞句題五十首
建仁元年冬
12首
作者
後鳥羽院 摂政殿(九条良経)
前大僧正(慈円) 俊成女
女房宮内卿 定家朝臣
点者
御點 摂政殿
前大僧正 三位入道釋阿
定家 寂蓮
初春待花 山路尋花 山花木遍 朝見花
遠村花 故郷花 田家花 古寺花
花似雪 河邊花 深山花 暮山花
古渓花 関路花 羇中花 湖上花
橋下花 花下送日 庭上落花 暮春惜花
初秋月 月前草花 雨後月 松間月
山家月 月前竹風 野徑月 澤邊月
月前聞雁 浦邊月 月照瀧水 杜間月
月前秋風 江上月 月前蟲 月前聞鹿
旅泊月 月前草露 菊籬月 暮秋曉月
寄雲戀 寄風戀 寄雨戀 寄草戀
寄木戀 寄鳥戀 寄嵐戀 寄舟戀
寄琴戀 寄衣戀
春歌上
故郷花といへるこころを
前大僧正慈圓
散り散らず人もたづねぬふるさとの露けき花に春かぜぞ吹く
春歌下
五十首歌奉りし中に湖上花を
宮内卿
花さそふ比良の山風ふきにけり漕ぎ行く舟のあと見ゆるまで
五十首歌奉りし中に關路花を
宮内卿
あふさかやこずゑの花をふくからに嵐ぞかすむ關の杉むら
秋歌上
五十首歌奉りし時杜間月と云事を
皇太后宮大夫俊成女
大荒木のもりの木の間をもりかねて人だのめなる秋の夜の月
五十首歌奉りし時月前草花
攝政太政大臣
故郷のもとあらのこ萩咲きしより夜な夜な庭の月ぞうつろふ
五十首歌奉りし時野徑月
攝政太政大臣
行くすゑは空もひとつのむさし野に草の原より出づる月かげ
五十首歌奉りし時雨後月
宮内卿
月をなほ待つらむものかむらさめの晴れゆく雲のすゑの里人
秋歌下
五十首歌奉りし時月前聞雁といふことを
前大僧正慈圓
大江山傾く月のかげさえて鳥羽田の面に落つるかりがね
五十首歌奉りし時菊籬月といへるこころを
宮内卿
霜を待つ籬の菊のよひの間に置きまよふいろは山の端の月
秋の歌とて
太上天皇
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりすやや影さむしよもぎふの月
戀歌二
五十首歌奉りしに寄雲戀
皇太后宮大夫俊成女
下もえに思ひ消えなむけぶりだにあとなき雲のはてぞ悲しき
雜歌上
五十首歌奉りしに山家月のこころを
前大僧正慈圓
山ざとに月は見るやと人は來ず空ゆく風ぞ木の葉をも訪ふ
建仁元年冬
12首
作者
後鳥羽院 摂政殿(九条良経)
前大僧正(慈円) 俊成女
女房宮内卿 定家朝臣
点者
御點 摂政殿
前大僧正 三位入道釋阿
定家 寂蓮
初春待花 山路尋花 山花木遍 朝見花
遠村花 故郷花 田家花 古寺花
花似雪 河邊花 深山花 暮山花
古渓花 関路花 羇中花 湖上花
橋下花 花下送日 庭上落花 暮春惜花
初秋月 月前草花 雨後月 松間月
山家月 月前竹風 野徑月 澤邊月
月前聞雁 浦邊月 月照瀧水 杜間月
月前秋風 江上月 月前蟲 月前聞鹿
旅泊月 月前草露 菊籬月 暮秋曉月
寄雲戀 寄風戀 寄雨戀 寄草戀
寄木戀 寄鳥戀 寄嵐戀 寄舟戀
寄琴戀 寄衣戀
春歌上
故郷花といへるこころを
前大僧正慈圓
散り散らず人もたづねぬふるさとの露けき花に春かぜぞ吹く
春歌下
五十首歌奉りし中に湖上花を
宮内卿
花さそふ比良の山風ふきにけり漕ぎ行く舟のあと見ゆるまで
五十首歌奉りし中に關路花を
宮内卿
あふさかやこずゑの花をふくからに嵐ぞかすむ關の杉むら
秋歌上
五十首歌奉りし時杜間月と云事を
皇太后宮大夫俊成女
大荒木のもりの木の間をもりかねて人だのめなる秋の夜の月
五十首歌奉りし時月前草花
攝政太政大臣
故郷のもとあらのこ萩咲きしより夜な夜な庭の月ぞうつろふ
五十首歌奉りし時野徑月
攝政太政大臣
行くすゑは空もひとつのむさし野に草の原より出づる月かげ
五十首歌奉りし時雨後月
宮内卿
月をなほ待つらむものかむらさめの晴れゆく雲のすゑの里人
秋歌下
五十首歌奉りし時月前聞雁といふことを
前大僧正慈圓
大江山傾く月のかげさえて鳥羽田の面に落つるかりがね
五十首歌奉りし時菊籬月といへるこころを
宮内卿
霜を待つ籬の菊のよひの間に置きまよふいろは山の端の月
秋の歌とて
太上天皇
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりすやや影さむしよもぎふの月
戀歌二
五十首歌奉りしに寄雲戀
皇太后宮大夫俊成女
下もえに思ひ消えなむけぶりだにあとなき雲のはてぞ悲しき
雜歌上
五十首歌奉りしに山家月のこころを
前大僧正慈圓
山ざとに月は見るやと人は來ず空ゆく風ぞ木の葉をも訪ふ