六 中納言家持
従三位兼行春宮大夫。陸奥出羽之按察使。鎮守府将軍。大伴ノ宿禰家持。
誕生ノ時代マチ/\ナリ。万葉集ノ撰者両人ノ内ナル由。五十代桓武延暦三年八月八十余才ニテ奥州ニテ薨
スト。続日本記三十八巻ニ委シト。
秘三ノ内
鵲のわたせる橋にをく霜のしろきを見れば夜ぞ更にける
新古今六冬部 題不知
一 紹巴云。これらが哥の奇妙也。雪月花の景物もなくて冬深き霜夜の晴たるにむかひてよめり。かさゝぎの橋と
は空の事也。月落雁啼霜満天といふより出たり。
一 三光院ノ御説。家持が闇夜に起出て月もなく冴たる天にむかひて吟し出せり。霜の空に満たるとは眼前に降た
るに非ず。晴夜の寒天さながら霜の満たると見ゆるやうなる躰也。
一 仍覚云。七夕にかさゝぎのはしといふは銀河に鵲の羽を双て橋となし牽牛をわたすをいふ。又鵲のより羽のは
しともよめり。しかれども此哥は空の事也。七夕には霜不可有故也。
新古今
秋暮て夜半にや霜のさえわたるらん 寂蓮
鵲のわたすいづこ夕霜の雲井に白き峯のかけはし 家隆
一 口伝云。鳥は空を橋となして飛わたる故に如此いへり。諸鳥の有に鵲に限りて云たるは七夕の事に付て鵲に橋
を詠ならはすゆへ也。又神代の巻に天ノ浮橋と云たるは虚空の義也。今も夫婦の志を通はすはこくうに橋をかけ
たるが如し。扨惣ての義は聖武天皇の勅をうけ万葉集を撰するに隙なき心をよめり。忠臣は戴テ星出戴星帰と
云也。夜更て御書所を退出する有さま也。天地人の三才を兼花実相応の哥也。此哥の心をうらやみて定家の哥
に題眺望。
新勅撰集雑二
百敷きの外衛を出づる宵/\はまたぬにむかふ山の端の月
一 鵲は鳫也。鵲の橋とは天を云。初秋には七夕の星わたり暮秋には霜わたると也。
一 東方朔伝。朔日ノ風ハ従東方来ル。鵲ハ順テ風ニ而立ツ。是ヲ以知ル其レ嚮テ東ニ鳴事ヲ。
※紹巴 里村紹巴
※三光院 三条西実枝
※仍覚 三条西公条
※鵲の雲の梯 秋哥下
従三位兼行春宮大夫。陸奥出羽之按察使。鎮守府将軍。大伴ノ宿禰家持。
誕生ノ時代マチ/\ナリ。万葉集ノ撰者両人ノ内ナル由。五十代桓武延暦三年八月八十余才ニテ奥州ニテ薨
スト。続日本記三十八巻ニ委シト。
秘三ノ内
鵲のわたせる橋にをく霜のしろきを見れば夜ぞ更にける
新古今六冬部 題不知
一 紹巴云。これらが哥の奇妙也。雪月花の景物もなくて冬深き霜夜の晴たるにむかひてよめり。かさゝぎの橋と
は空の事也。月落雁啼霜満天といふより出たり。
一 三光院ノ御説。家持が闇夜に起出て月もなく冴たる天にむかひて吟し出せり。霜の空に満たるとは眼前に降た
るに非ず。晴夜の寒天さながら霜の満たると見ゆるやうなる躰也。
一 仍覚云。七夕にかさゝぎのはしといふは銀河に鵲の羽を双て橋となし牽牛をわたすをいふ。又鵲のより羽のは
しともよめり。しかれども此哥は空の事也。七夕には霜不可有故也。
新古今
秋暮て夜半にや霜のさえわたるらん 寂蓮
鵲のわたすいづこ夕霜の雲井に白き峯のかけはし 家隆
一 口伝云。鳥は空を橋となして飛わたる故に如此いへり。諸鳥の有に鵲に限りて云たるは七夕の事に付て鵲に橋
を詠ならはすゆへ也。又神代の巻に天ノ浮橋と云たるは虚空の義也。今も夫婦の志を通はすはこくうに橋をかけ
たるが如し。扨惣ての義は聖武天皇の勅をうけ万葉集を撰するに隙なき心をよめり。忠臣は戴テ星出戴星帰と
云也。夜更て御書所を退出する有さま也。天地人の三才を兼花実相応の哥也。此哥の心をうらやみて定家の哥
に題眺望。
新勅撰集雑二
百敷きの外衛を出づる宵/\はまたぬにむかふ山の端の月
一 鵲は鳫也。鵲の橋とは天を云。初秋には七夕の星わたり暮秋には霜わたると也。
一 東方朔伝。朔日ノ風ハ従東方来ル。鵲ハ順テ風ニ而立ツ。是ヲ以知ル其レ嚮テ東ニ鳴事ヲ。
※紹巴 里村紹巴
※三光院 三条西実枝
※仍覚 三条西公条
※鵲の雲の梯 秋哥下