百人一首改観抄
契沖●は不明文字。
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○持統天皇春過て夏きにけらし白妙の衣ほすてふあまのかくやま 新古今集巻頭題しらずとていれり。もとは万葉㐧 一に藤原宮御宇天皇代天皇御製とて㐧二句 夏来良之㐧四句衣乾有とあり。今案夏来良之 は同じき㐧十云 寒過暖来良之朝日指滓鹿能山爾霞輕引 此点になすらへて思ふに夏はきぬらしと点すへ し。彼集にけりといふには来の字をかけり。けらしは けるらしなれはきにとにの字を讀付る上にいかでか
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躰ある字を讀付へき。今の点のことくならは来の字 今ひとつ有へきなり。但是は理におきては違ことな し。衣乾者もまさしくはほしたりと点すへきに や。是又心はかはらす。春過て夏來にけらしとは 同集㐧十九の長哥にも春過而夏来向者云云 白妙とは白きは本色なれはおほく白妙の衣と も袖ともよめり。かく山は大和國十市郡にて高 市郡藤原宮よりちかく見やらせ給へは山片付て 住む家/\より箱の中にたゝみおけりし夏 衣をとり出てほせるか数多白妙にみゆるに付てImage may be NSFW.
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はや春は過て夏こそ來ぬらしと時節を感し てあそはせるなり。菅家首夏詩に開箱衣帯隔年 香とあり。袖中抄に風俗哥を出して云 かひがねに白きは宮かいなおさのかひのけ衣さらすてづくり 是山に衣ほす證哥なり。又万葉集㐧十四に
筑波禰爾由伎可母布良留伊奈乎可母加奈 思吉兒呂我爾努保佐流可母
下句はかなしきこらかぬのほせるかもなり。かなしき はいとをしき心なり。此哥布をおほくほせるが雪 のやう有を興してよめる歟。いつれにてもあれ山にImage may be NSFW.
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布ほす證なれは衣にもかよはして證すへし。古抄に 霞のはれて山のあきらかにみゆるを白妙の衣ほす とはいへり。ほすは衣の縁にいへり。又云いかてか明に見 ゆれはとて白妙の衣とふそといふ人あり。春は山の 霞の衣におほはれたるやうなるも夏の來て霞もは れたるやうなれは白妙の衣といへり。霞の衣をもて いへる詞也。やさしといへる説は心得かたし。雲の衣霞の 衣なといふは衣の身をおほふことくなれはいふなり。霞 の晴たらんをは衣をぬくとはいふへし。いかてか青/\ とのみ見ゆる山を白妙の衣ほすとはよませ給ふ
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へき。春はかすまて夏に入て霞むものならはさも 釈すべし。その上霞と云文字さへなきをとかくいふ こと暗推也。但ふるく此御製を取てよまれたる哥 ともをみるにいかゝ心得られけんとおほつかなきこ と多し。又衣さらせりは叡覧のうちつゆなるを にてせりといへかは現在の詞なるを衣ほすてふと改 められたる事いと心得かたし。其ゆへはほすてふ はほすといふにて●にいへる詞なりといふをてふと いへるは登以切知なれは万葉にはつゞめて知布ともあり。 多知豆氐登五音通する中に知と氐と二四相通Image may be NSFW.
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しててふとはいへり。古き詞に五音相通の●沈お ほくあるなり。たとへは者といへるといへれはな り。是又登以切知して知と氐と二四相通や古今集の 門させりてへといへるも門させりといへなり。此数多し 推して知へし。万葉集には云の字をもてふと点せり。其うへ ●いを一つにいへはての音自●といづ中華の音みなしか なり。是五音相通音の自●なかものと知へし。然れは昔かく山に 衣ほしたる由緒なとのあるをよませ給ひ又は臣下 の只今書山に衣ほしてさふらふと奏するを聞しめ してあそはせるやうに聞めして叡邉にかなはすや侍らん
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追考 為家卿後撰抄云いつはりをぬれきぬといふ事 はむかし●実をたゝさんために大和国天香山にて夏の 日かたひらをぬらして神楽をしてみるにすぐさぬ人の きぬは●かてひるなり。すぐしたるものゝ衣はさらなくひ ぬなりとあり。又神名帳 大和国十市郡 天香山坐櫛真 命神社此神なとをまつれるにや 舊事紀云令中 臣祖天兒屋命忌部祖天太玉命而内抜天香 山真牡鹿之肩抜而取天香山之天波々迦 而令占牟 凡後鳥羽院の御時より後哥の躰改て作者おの/\俗をImage may be NSFW.
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出て氣高からんとのみよめは髣髴たる詞つかひ多く聞ゆ。 されは古哥の詞を改て時に叶らるゝも時の好みに随ひて おほつかなくなれるなるへし。古哥に みねこえて雲に翅やしほるらん月にほすてふ初かりの声 此ほすてふといへる詞もおろかなる耳にはうけ給り得かたし 追考 古今集恋二小野小町 うたゝねに恋しき人をみてしより夢てふ物は頼そめてき 此てふは上にいへることくと云心にてよく聞えたり。 されと中世以來てふといへる詞をなりといへる詞の ●に思ひ來れることあり。同し古今集夏紀利貞Image may be NSFW.
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あはれてふことをあまたにやらしとや春にをくれて独咲らん このてふはなるといへる詞にて●たるとみしたり。續後撰集太上天皇 冬來ては衣ほすてふ隙もなくしくるゝ空の天のかく山 ●此新古今集入たる御製に全くよりてよめる哥とらや。 月に干てふも●てふの詞つかひにしてなるといふへき●に てふ●たるとみえ然るへくや
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契沖●は不明文字。
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○持統天皇春過て夏きにけらし白妙の衣ほすてふあまのかくやま 新古今集巻頭題しらずとていれり。もとは万葉㐧 一に藤原宮御宇天皇代天皇御製とて㐧二句 夏来良之㐧四句衣乾有とあり。今案夏来良之 は同じき㐧十云 寒過暖来良之朝日指滓鹿能山爾霞輕引 此点になすらへて思ふに夏はきぬらしと点すへ し。彼集にけりといふには来の字をかけり。けらしは けるらしなれはきにとにの字を讀付る上にいかでか
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躰ある字を讀付へき。今の点のことくならは来の字 今ひとつ有へきなり。但是は理におきては違ことな し。衣乾者もまさしくはほしたりと点すへきに や。是又心はかはらす。春過て夏來にけらしとは 同集㐧十九の長哥にも春過而夏来向者云云 白妙とは白きは本色なれはおほく白妙の衣と も袖ともよめり。かく山は大和國十市郡にて高 市郡藤原宮よりちかく見やらせ給へは山片付て 住む家/\より箱の中にたゝみおけりし夏 衣をとり出てほせるか数多白妙にみゆるに付てImage may be NSFW.
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はや春は過て夏こそ來ぬらしと時節を感し てあそはせるなり。菅家首夏詩に開箱衣帯隔年 香とあり。袖中抄に風俗哥を出して云 かひがねに白きは宮かいなおさのかひのけ衣さらすてづくり 是山に衣ほす證哥なり。又万葉集㐧十四に
筑波禰爾由伎可母布良留伊奈乎可母加奈 思吉兒呂我爾努保佐流可母
下句はかなしきこらかぬのほせるかもなり。かなしき はいとをしき心なり。此哥布をおほくほせるが雪 のやう有を興してよめる歟。いつれにてもあれ山にImage may be NSFW.
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布ほす證なれは衣にもかよはして證すへし。古抄に 霞のはれて山のあきらかにみゆるを白妙の衣ほす とはいへり。ほすは衣の縁にいへり。又云いかてか明に見 ゆれはとて白妙の衣とふそといふ人あり。春は山の 霞の衣におほはれたるやうなるも夏の來て霞もは れたるやうなれは白妙の衣といへり。霞の衣をもて いへる詞也。やさしといへる説は心得かたし。雲の衣霞の 衣なといふは衣の身をおほふことくなれはいふなり。霞 の晴たらんをは衣をぬくとはいふへし。いかてか青/\ とのみ見ゆる山を白妙の衣ほすとはよませ給ふ
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へき。春はかすまて夏に入て霞むものならはさも 釈すべし。その上霞と云文字さへなきをとかくいふ こと暗推也。但ふるく此御製を取てよまれたる哥 ともをみるにいかゝ心得られけんとおほつかなきこ と多し。又衣さらせりは叡覧のうちつゆなるを にてせりといへかは現在の詞なるを衣ほすてふと改 められたる事いと心得かたし。其ゆへはほすてふ はほすといふにて●にいへる詞なりといふをてふと いへるは登以切知なれは万葉にはつゞめて知布ともあり。 多知豆氐登五音通する中に知と氐と二四相通Image may be NSFW.
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しててふとはいへり。古き詞に五音相通の●沈お ほくあるなり。たとへは者といへるといへれはな り。是又登以切知して知と氐と二四相通や古今集の 門させりてへといへるも門させりといへなり。此数多し 推して知へし。万葉集には云の字をもてふと点せり。其うへ ●いを一つにいへはての音自●といづ中華の音みなしか なり。是五音相通音の自●なかものと知へし。然れは昔かく山に 衣ほしたる由緒なとのあるをよませ給ひ又は臣下 の只今書山に衣ほしてさふらふと奏するを聞しめ してあそはせるやうに聞めして叡邉にかなはすや侍らん
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出て氣高からんとのみよめは髣髴たる詞つかひ多く聞ゆ。 されは古哥の詞を改て時に叶らるゝも時の好みに随ひて おほつかなくなれるなるへし。古哥に みねこえて雲に翅やしほるらん月にほすてふ初かりの声 此ほすてふといへる詞もおろかなる耳にはうけ給り得かたし 追考 古今集恋二小野小町 うたゝねに恋しき人をみてしより夢てふ物は頼そめてき 此てふは上にいへることくと云心にてよく聞えたり。 されと中世以來てふといへる詞をなりといへる詞の ●に思ひ來れることあり。同し古今集夏紀利貞Image may be NSFW.
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あはれてふことをあまたにやらしとや春にをくれて独咲らん このてふはなるといへる詞にて●たるとみしたり。續後撰集太上天皇 冬來ては衣ほすてふ隙もなくしくるゝ空の天のかく山 ●此新古今集入たる御製に全くよりてよめる哥とらや。 月に干てふも●てふの詞つかひにしてなるといふへき●に てふ●たるとみえ然るへくや
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