絵入自讚歌註 宗祇
有家卿(ありいゑきやう) あさ日かげにほへる山のさくら花 つれなくきえぬ雪かとぞ見るこれは万葉に朝日かげにほへる山にてる月のあかざる君を山ごしにして。と云哥を二句とれり。心は當意即妙なり。此作者の十首内にはすぐれたるとぞ申べからん。かやうの哥の殊勝なるか。我ちからいらでは聞侍らぬ事なり。くれ/"\たゞ修行あるべきにこそ。又ある註に此うたをぎんずる時はいれゐもへい
ゆうするよし頓阿申されしと也。 こぬ秌のいつくれはてゝうすごほり むすぶばかりの山の井の水納涼のこゝろなり。おもしろくもぬけたり。ある註に水邊従秋涼といふ心なり。
おほよどの月にうらみてかへる波 松はつらくもあらしふく夜にこゝろは大よどの月のひとりさやかに夜ふけゆくまゝに心すむ折ふしうらなみよせてはかへりするをつく/"\と見てこの月のおりふし松の風ものあはれにふきてすさまじきをこのな
みうらみてかへるよとみたるさまなり。いせ物語に大よどの松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる波かな。といふうた大略也。但本哥は恋のうたなり。このうた恋にあらず。たゞ此うらの興に思ひ入てみ侍らば此ことはりあきらか成べし。 花をのみおしみなれたるみよしのゝ こずゑにおつるありあけの月心はあきらかなり。さて此月は秋の月などにやおぼえ侍る。但又何時もいふべきにこそ。 ゆくとしを小嶋のあまのぬれ衣 かさねて袖になみやかくらむ
海邊歳暮といへる題の哥なり。こゝろはわづらひなし。たゞしかさねて袖になみやとはとしなみの事にこそ。 物おもはでたゞおほかたの露にだに ぬるればぬるゝあきのたもとをこゝろはたゞおもひのつゆのすぐれたるところをよくいへるこゝろにこそ。ある本にものおもはぬ人だにも秋のこゝろはかなしかるべきに、ましてうらみなどのある人のとことばのこしたり。 たびごろもかへす夢ぢはむなしくて
月をぞみつるありあけのそら
ころもをかへして夢をみる本哥のよしなり。心はふるさとに思ふ人をしたひてころもをかへせばそのしるしなきよしなり。ありあけのそらなどいひとゞめたる所心ふかく見え侍るにや。ある註にかへすとも雲の衣はうらもあらじ一夜夢かせみねの木がらし。と云哥などの心にや。うば玉の夜のころもをかへすと云哥よりの心也。 岩がねのとこにあらしをかたしきて ひとりやねなむさよの中山心はあきらか也。たゞひとりやねなんと云所にかき
りなきあはれこもるべきにこそ。 我ばかりおもふかものをとばかりに 袖にしぐるゝにはのまつ風
ものをおもふといはんを思ふかものをといふことばづかひゆふなるとや。心わが思ひをおとりくこゝろめづらしきやうにや。 春の雨のあまねき御代をたのむ哉 霜にかれ行草葉もらすなこゝろはあきらかなり。枯ゆく草をわが身のごとくみ侍るべし。ある註にわが身卑下の哥春宮の御事を
めぐみたまへとなり。
有家卿(ありいゑきやう) あさ日かげにほへる山のさくら花 つれなくきえぬ雪かとぞ見るこれは万葉に朝日かげにほへる山にてる月のあかざる君を山ごしにして。と云哥を二句とれり。心は當意即妙なり。此作者の十首内にはすぐれたるとぞ申べからん。かやうの哥の殊勝なるか。我ちからいらでは聞侍らぬ事なり。くれ/"\たゞ修行あるべきにこそ。又ある註に此うたをぎんずる時はいれゐもへい
ゆうするよし頓阿申されしと也。 こぬ秌のいつくれはてゝうすごほり むすぶばかりの山の井の水納涼のこゝろなり。おもしろくもぬけたり。ある註に水邊従秋涼といふ心なり。
おほよどの月にうらみてかへる波 松はつらくもあらしふく夜にこゝろは大よどの月のひとりさやかに夜ふけゆくまゝに心すむ折ふしうらなみよせてはかへりするをつく/"\と見てこの月のおりふし松の風ものあはれにふきてすさまじきをこのな
みうらみてかへるよとみたるさまなり。いせ物語に大よどの松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる波かな。といふうた大略也。但本哥は恋のうたなり。このうた恋にあらず。たゞ此うらの興に思ひ入てみ侍らば此ことはりあきらか成べし。 花をのみおしみなれたるみよしのゝ こずゑにおつるありあけの月心はあきらかなり。さて此月は秋の月などにやおぼえ侍る。但又何時もいふべきにこそ。 ゆくとしを小嶋のあまのぬれ衣 かさねて袖になみやかくらむ
海邊歳暮といへる題の哥なり。こゝろはわづらひなし。たゞしかさねて袖になみやとはとしなみの事にこそ。 物おもはでたゞおほかたの露にだに ぬるればぬるゝあきのたもとをこゝろはたゞおもひのつゆのすぐれたるところをよくいへるこゝろにこそ。ある本にものおもはぬ人だにも秋のこゝろはかなしかるべきに、ましてうらみなどのある人のとことばのこしたり。 たびごろもかへす夢ぢはむなしくて
月をぞみつるありあけのそら
ころもをかへして夢をみる本哥のよしなり。心はふるさとに思ふ人をしたひてころもをかへせばそのしるしなきよしなり。ありあけのそらなどいひとゞめたる所心ふかく見え侍るにや。ある註にかへすとも雲の衣はうらもあらじ一夜夢かせみねの木がらし。と云哥などの心にや。うば玉の夜のころもをかへすと云哥よりの心也。 岩がねのとこにあらしをかたしきて ひとりやねなむさよの中山心はあきらか也。たゞひとりやねなんと云所にかき
りなきあはれこもるべきにこそ。 我ばかりおもふかものをとばかりに 袖にしぐるゝにはのまつ風
ものをおもふといはんを思ふかものをといふことばづかひゆふなるとや。心わが思ひをおとりくこゝろめづらしきやうにや。 春の雨のあまねき御代をたのむ哉 霜にかれ行草葉もらすなこゝろはあきらかなり。枯ゆく草をわが身のごとくみ侍るべし。ある註にわが身卑下の哥春宮の御事を
めぐみたまへとなり。